「日本美術応援団長」の山下裕二氏(明治学院大学教授、美術史家)を引率に「ナマの日本美術を観に行こう」の掛け声で始まった大人の修学旅行シリーズ。今回は、女優・田中道子さんとともに、幕末に生まれ、明治に活躍した陶工・宮川香山の展覧会を訪れた。横浜・眞葛ミュージアムが所蔵する香山コレクションを、没後100年の節目に増上寺宝物展示室で一挙公開。花瓶や香炉に施された驚きの装飾彫刻を中心に、独創的で華麗な世界を展開する。
山下:ここ増上寺宝物展示室は、徳川家康没後400年の昨年完成しました。徳川家の菩提寺であったことが由縁ですが、田中さんはいらしたことがありますか?
田中:浜松出身で家康ゆかりの浜松城へはよく行きましたが、増上寺は初めてです。幕末に生まれ、明治期に活躍した陶工・宮川香山ともゆかりがあるのですか?
山下:宝物展示室には、明治43年にロンドンで開催された日英博覧会に出品された『台徳院殿霊廟模型』が里帰りして常設展示されていますが、その博覧会には香山の作品も出品されている。1世紀以上の時を超え、この空間で再び顔を揃えたわけです。
田中:素敵ですね! 香山の作品は初めて拝見しましたが、『鷹ガ巣細工花瓶 一対』の精緻さに衝撃を受けています。鷹や幹が浮き出てくる大胆さとは裏腹に、葉の艶や羽根の繊維まで感じられる鷹の毛並みなど、表現がとてもきめ細やか。ひな鳥の巣は、覗いてみると青葉が生えています。粉雪舞う冬の情景とのコントラストも印象的で、いつまでも眺めていたい。脳裏に焼き付けたい作品です。
山下:その精緻さこそ、香山が編み出し、世界を震撼させた超絶技巧「高浮彫」です。『猫ニ花細工花瓶』も芸が細かいですよ。浮き出した猫の耳の中をよく見てみると、あのぐにょぐにょした特有の質感が見事に表現されているでしょう。香山はこういう細部に異常な執着をみせました。独創的な表現を次々と試す貪欲さが創作の原動力だったのでしょうね。
田中:ぺろっと出ている舌がまたとっても薄くて繊細です。焼き物だということが信じられません。
山下:釜で焼かれて収縮するのを計算した上でのことですからね。中を覗いてみると、鷹や猫が浮き出した部分には凹凸があります。厚さによって収縮率が違うので、浮き出た部分をへこませたのです。