日本人が知らない北方領土の現実。実は、現地には中国資本が大規模に浸透し、多数の中国人が住みついているのだ。ロシア政治に詳しい政治学者・中村逸郎氏が警鐘を鳴らす。
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「国後島を多くの外国人が平然と歩いていて驚いた。とくに目立ったのは中国人で“なぜ、彼らがここにいるのか”と訝しかった」
今年8月、ビザなし交流で北方領土を訪れた日本人のナマの感想である。
12月のプーチン大統領訪日を控え「北方領土がついに返ってくる」との気運が増すが、多くの日本人は「真実」を知らない。実は現在、日本の領土であるはずの国後と色丹に「中国の影」が多分にチラついているのだ。
転換期は2010年11月だった。この時、ロシアのメドベージェフ大統領(当時)が旧ソ連時代も含めて、ロシアの国家指導者として初めて国後を視察。大騒ぎする日本政府やマスコミを尻目に訪問前後から、ロシアは北方4島へ海外資本を呼び込む動きを本格化させた。各国に向かって「投資を歓迎する」と表明し始めたのだ。
続く2011年3月には、北方4島を管轄するロシア・サハリン州政府の代表団が中国・北京を訪問した。一行は北方4島周辺のクルーズ観光やナマコの養殖施設の建設など、20項目近い投資案件をプレゼンして、サハリンや南クリル諸島(国後、色丹、択捉)の大規模な開発と投資を呼びかけた。
以降、単なる民間ビジネスでなく、ロシア政府や州政府が絡む一大プロジェクトとして、中国資本の導入が進むことになる。
2012年には、国後にある2つの水産加工工場に中国資本が漁業や養殖のため5000万ドル(約50億円)を投資した。うち一つの工場は、中国の漁船が水揚げした魚介類を缶詰にして、バルト三国やドイツ、ポーランドや中国、北朝鮮などに輸出する。輸出高1億4300万ドル(約143億円。2014年)は全ロシアの水産企業中4位という高売上を誇る。