【著者に訊け】つぶやきシロー/『私はいったい、何と闘っているのか』/小学館/1500円+税
Twitterのフォロワー数は70万超。かと思えば一時はネットで根も葉もない死亡説が流れるなど、常に見られている人は見ている人でもあった。
初小説『イカと醤油』から5年。つぶやきシロー氏(45)の最新作『私はいったい、何と闘っているのか』の主人公〈伊澤春男〉は、地元密着型スーパー〈うめや〉のフロア主任。〈上田店長〉やパートのおばちゃんからの信頼も厚い、大原店一筋、勤続25年の45歳だ。
店長の器ではないと言いつつ、人事や出世はやはり気になる彼にとって、上田が言ってくれた〈司令塔〉という言葉が唯一の宝物。家に帰れば、妻〈律子〉と〈小梅〉〈香菜子〉〈亮太〉の二女一男が待つ父親でもある。そんな中年男をめぐる悲喜こもごもの騒動が、全7章に綴られてゆく。
ユーモアとペーソスとは紙一重と言うが、人間関係や空気に目を配り、多少〈考え過ぎ〉でもある春男の空回りぶりは、一見どこにでもありそうだから可笑しく、切ない。いわゆる「あるある芸」の第一人者は、やはり観察力と妄想力の人だった。
「なんでかな、僕の小説を読んだ人はみんな、妄想がスゴイって言う。でも妄想って言葉はどうも違うというか、気遣いとか危機回避とか、必要があってする想像もあると思うのね。この春男もお店や家族のためを思って、何事も先回りして考えちゃうだけで、でも現実はその通りにならないから、大抵は想像力の無駄遣いになる。そういう報われない人とか気持ちを、書きたかったんです」