【受賞者の言葉】
PL野球部が最後に全国制覇したのは、立浪和義が主将を務め、片岡篤史、宮本慎也らが活躍した1987年夏の甲子園だ。もう30年近く前のことなのに、高校野球ファンの間でPL人気は根強い。黄金期の圧倒的な強さとアルプス席の人文字応援が、鮮烈に脳裏に刻まれているからだろう。
かつては「逆転のPL」が代名詞だった。たとえリードされていても、胸のアミュレット(お守り)を握りしめ、最後まで勝利を信じて戦い抜く。そして信じられないような一打、プレーが飛び出し、数々の逆転劇が生まれた。その背景には学園の母体である教団の信仰があり、PL野球の得体の知れない強さは相手校にとって脅威となった。
PL野球の真髄はどこにあるのか。信仰の側面から追いかけ、数奇な歴史と経緯を知れば知るほど惹かれたのが、12人の最後の部員たちだ。背が軒並み小さく、線も細い。どこにでもいそうな高校球児たちだった。彼らは、学園が部の強化を止めたことを知りながら、名門校に憧れ入学してきた。
昨年、“後輩のいない最上級生”となってからは連戦連敗。それでもPLの部員として、報道陣には「目標は甲子園」と言い続けた。一方で、彼らは目の前の試合に必死だった。まずは一勝して校歌を歌うことだけが彼らの願いだった。彼らは公式戦未勝利のまま部活動を終えたが、最後の試合では、まさかの逆転本塁打が飛び出すなど金看板に恥じぬ野球を見せた。
今回の受賞は、その12人の2年半の成長を讃えるためにいただいたものだと理解している。
【プロフィール】やながわ・ゆうじ/1976年、宮崎県生まれ。ノンフィクションライター。法政大学在学中からスポーツ取材を開始し、2005年以降は春夏の甲子園取材をライフワークとする。著書に『最弱ナイン』(角川書店)などがある。
※週刊ポスト2016年12月2日号