今年で23回目となる「小学館ノンフィクション大賞」の最終選考会が10月下旬に行なわれた。9年ぶりに一新された選考委員が最終候補5作品について縦横無尽に論じ合い、強豪校野球部の終焉を描いたノンフィクションライター・柳川悠二氏(40)によるルポ『永遠のPL学園──六〇年目のゲームセット』を大賞に選出した。本作品は来年早々にも単行本化される。
【受賞作品のあらすじ】
春夏通算7回の甲子園制覇を誇るPL学園野球部は、2016年7月15日、約60年の歴史に幕を閉じた。最後の部員は12人。強豪校では当たり前の「特待生」も、彼らの世代にはいない。本作では、その12人の成長を2年にわたって追うとともに、なぜ名門野球部が廃部に追い込まれたのか、その真相を探った。
最初の証言者は、学園の母体であるパーフェクトリバティー教団を立教した二代教主・御木徳近の意を受け、部の強化に尽力した学園1期生の井元俊秀。80歳になる井元は野球部創部の経緯、野球部と信仰の深い結びつきを初めて明かした。
さらに桑田真澄、清原和博らが活躍した全盛期にも、PLの強さの根源に「信仰の力」があったと関係者は口を揃えた。全国中継される春夏の甲子園で、アルプススタンドに「PL」の人文字が描かれ、野球部は教団名を世に広めた。その効果は絶大で、春夏連覇を達成した1987年には公称信者数が260万人に達する。教団のネットワークを駆使して有望選手の情報を集め、信者の寄付を投じて特待生を受け入れる。それがPLの強化システムだった。
入部したばかりの1年生は先輩に対して「はい」と「いいえ」しか口にすることが許されず、何かミスをすれば連帯責任。そうした“鉄の掟”はPL野球の精神的根幹となった一方、2000年代以降は度重なる暴力事件の温床にもなっていく。
2013年2月に発覚した不祥事を機に、学園と教団は廃部へと舵を切る。それ以降、野球経験のある監督が置かれることはなかった。教団やOBの事情に翻弄されながら名門校の伝統を背負った最後の12人だが、公式戦や練習試合で連戦連敗。彼らの野球は、先制しても結局は負けてしまう“逆転されるPL”だった。
そうして公式戦の勝利がないまま、「最後の夏」を迎えたPL。その初戦で、12人は黄金期を彷彿とさせる逆転劇を見せる──。