近年増えているという「墓じまい」。実際にどのように行われるのか、その知られざる現場をノンフィクションライターの井上理津子氏がレポートする。業者に依頼して神奈川県川崎市にある代々のお墓を撤去し、長野県にある善光寺に遺骨を搬送することに決めた、ある60代の夫婦に密着した。
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JR南武線津田山駅から緩やかな坂道を3分ほど上ったところに、緑ヶ丘霊園の入り口があった。桜並木が美しい。多摩丘陵の最東端に位置するこの霊園は、1943年に川崎市が開園した。東京ドーム約13個分の広大な敷地に、約2万5000基のお墓が並んでいる。
訪れたのは10月のある平日。午前9時に、桜の大木の前で『やすらか庵』(千葉市)の代表、清野勉さん(57才)と待ち合わせた。やすらか庵は「墓じまい」の施工を手がけるNPO法人である。「墓じまい」「改葬」「お墓の引っ越し」などのキーワードで検索すると10社ほどヒットする中の1つ。他社と異なるのは、清野さん自身が僧侶で、NPO法人であることだ。
この日、緑ヶ丘霊園にお墓を持っていた人の墓じまいが行われる。清野さんが小型乗用車で到着したのに続き、スタッフの上矢拓史さん(35才)もクレーンやワイヤー、スコップ、工具、土袋などを積んだ2トン車で着いた。2人ともグレーの作業着を着ている。
「今日の依頼者は、長野県にお住まいの女性です。5月にメールで問い合わせが入り、電話で何度かお話しした後、見積もりをお出ししたのが9月19日でした」
清野さんが見積書を見せてくれた。
1:墓石撤去及び処分一式
交通費、車両、機材搬入、墓石基礎部分撤去、コンクリート撤去、整地、墓石及びコンクリートリサイクル処分 30万240円
2:最後のお墓参り
お清め、遺骨の取り出し 3万2400円
3:遺骨の搬送、納骨
善光寺までの搬送、納骨 5万9400円
などと明細が示され、合計額が「39万2040円(消費税込)」と記されている。やすらか庵の墓じまいの基本料金(1平方メートル)は7万9800円。敷地面積やお墓の形状などによって個別に見積もられる。
さっそく入り口から車で5分ほどの依頼者のお墓に同行する。なだらかな丘陵に抱かれ、約3m×1.8mほどの区画のお墓が1列に10基ほどずつ規則正しく並ぶエリアにあった。トラックをお墓の前に横付けし、荷物を下ろすと清野さんは車を10mほど離れた広場に駐車し、墓所へ。