160kmの豪速球を投げるわけでも、本塁打王を取ったわけでもない。それでも球史に残る活躍を見せた“地味にスゴイ”引退選手が、現役生活を締めくくるインタビューに答えた。彼らの心を揺さぶった一球とは。広島一筋19年の名捕手・倉義和(41)は、今シーズンより前に引退する可能性があったことを明かした。
「2、3年前からチームの戦力になれず引退を意識していました。今年まで踏みとどまったのは、“黒田(博樹)さんが広島に戻ってくるかもしれない。黒田さんの球をもう一度受けたい”という思いがあったからです」
一学年上の黒田とは入団当初から兄弟のような仲で、メジャーに移籍するまで「黒田専属捕手」として長い間バッテリーを組み、広島の低迷期を支えてきた。黒田の信頼を得るようになったのは、2005年の春季キャンプでの“事件”がきっかけだった。
「投手の球を良い音を出してキャッチするのが捕手の仕事の一つ。その時、僕は新しいミットを使っていたため、上手く音を出せなかったんです。それに気づいた黒田さんから“俺でミットを作るな(慣らすな)!”と怒られました。しばらくは、いくら謝っても口を利いてくれなかった。この一件で野球に対する考えの甘さに気づかされ、練習から必死に励むようになりました」
ストイックな黒田に食らいついたことで信頼を獲得していった。その後、メジャーに移籍する高橋建(2009年メッツへ)からも専属捕手に指名された。高校時代には大家友和(1999年横浜からレッドソックスへ)とバッテリーを組んでいたこともあり、「メジャー養成捕手」と称された。
忘れられない1球も、やはりメジャーに移籍した前田健太(2016年ドジャースへ)と組んだ時のものだった。2011年10月25日のヤクルトとの最終戦で、9回裏1死までノーヒットノーランを続けていたが、次の打者に投じた2球目を痛打され記録を阻止されると、連打を許しサヨナラ負けを喫したのである。