『NHKスペシャル』で話題沸騰(番組HPより)
「がん医療」の現場で、従来の常識を覆す新たな治療法が試みられている。遺伝子を解析することで、同じ部位のがんであっても患者によって異なる“原因”を突き止め、ピンポイントの治療を施す「プレシジョン・メディシン(精密医療)」と呼ばれるものだ。「オーダーメイド治療」ともいえる、がん治療現場の最前線を追う。
「がん治療に革命をもたらすことは間違いないでしょう。今までは、敵の正体がよく分からないまま“絨毯爆撃”をしていたようなものでしたが、この治療法はがんの『本当の原因』を調べ、新たな“武器”を使って狙い撃ちするようなものなのです」
こう語るのは、世界最先端のがん研究を行なう国立がん研究センター東病院の大津敦・病院長だ。同病院の取り組みを紹介した『NHKスペシャル』(11月20日放送)の「“がん治療革命”が始まった~プレシジョン・メディシンの衝撃~」での内容は、がん患者やその家族、医療関係者をはじめ、多くの反響を呼んだ。
番組では、肺がんのステージIVで「余命2年」と宣告された48歳の女性が、宣告から5年目を迎えた今も元気に生活している様子が映し出された。
この女性に施された最新の抗がん剤治療法が「プレシジョン・メディシン」だ。この治療法は、近年明らかになった「がん細胞増殖のメカニズム」を利用したものである。
そのメカニズムとは、「人間の体を構成する遺伝子が傷ついて変異を起こすと異常なたんぱく質を生み出し、それががん細胞を増殖させる」というもの。また、遺伝子変異の起こり方は、たとえ同じ部位のがんであっても患者によって異なることが分かっている。
そこでプレシジョン・メディシンは、まず患者の体内からがん細胞を採取して遺伝子を解析する。遺伝子変異のタイプを見極めた上で、最適な「分子標的薬」を選び患者に投与するのである。分子標的薬とは、新種の抗がん剤で異常なたんぱく質の働きを抑える効果がある。前出・大津氏が次のように解説する。
「従来の抗がん剤は正常な細胞まで傷つけることで副作用が大きかったが、たんぱく質だけを標的にする分子標的薬は比較的副作用が少ない。加えて、がんの原因そのものに対応する薬を使うことで、従来の抗がん剤では効果が十分でなかった患者さんにも効く確率が高くなり、より長生きすることが期待できます」
この遺伝子解析による最新治療は、海外でも注目されている。アメリカでは昨年1月、オバマ大統領がプレシジョン・メディシンを「今後の医療の柱にする」と宣言している。