若い愛人と浮気する夫、そしてそれにおそらく気がついていた妻。その妻は携帯メールの下書きに『もう愛していない、ひとかけらも』というメッセージを残して事故で亡くなった――妻に先立たれた夫がもがき苦しむ様が描かれた映画『永い言い訳』。
今岡裕子さん(仮名、48才)は、会社員の夫(49才)との間に3人の息子(10才、8才、6才)がいる。夫にいつ離婚を切りだそうか考えているさなか、この映画を見たという。
「夫婦って何だろうって改めて考えさせられました。私は夫のことを理解したつもりでいたけど、そうじゃないかもしれない。主人公の幸夫は涙も見せず冷めているように見えるんですが、それでいて誰よりも妻の死を悲しんでいたように思えました。よくも悪くも夫婦だからわかり合えているはずというのは、図々しい考えなのかも。
だからこそ、やっぱり思いは相手に伝えないと伝わらないし、疑問に思っていることは聞いてみたほうがいいなって思いました。
夫と一緒にいるのが嫌で仕方ない私は、きっと夫もそう思ってるはずだと思ってきました。でも、自分で夫の嫌いな部分を膨らませてしまっているだけじゃないか。そして、夫は夫でまったく違うふうに考えているところがあるかもしれない。私は愛せるはずの人を手放そうとしているのかも、そんなことを考えました」
同作の監督・西川美和さん(42才)は結婚してないからこそ、結婚を俯瞰して見ている。
「最初はほとんどの男女が純粋な愛情関係で結ばれたはずなのに、決してお互いがお互いの人生を台無しにしてやろうと思ってくっついたわけじゃないはずなのに、だんだんいちばん自分の人生を台無しにする他者になっていくことはありますよね」
結婚は、そういった「悪しきこと」が起きてしまう可能性を秘めていると思いながらも、「そこまで人との関係が濃くなるというのはやっぱり他では得られないことなんじゃないでしょうか」と西川さんは笑う。
ドラマ『家政婦のミタ』をはじめ、数々のドラマで夫婦や家族を描いてきた脚本家の遊川和彦さん(61才)は、結婚でも離婚でも、厄介ごとと向き合うことが幸せにつながると考える。