とっさに佐藤さんの脳裏に「家制度」の3文字が浮かび「実家の重さ」が蘇った。盆正月に帰省を強いられたこと、「離婚するつもり」と父に言った時「絶対に許さん」と激怒されたこと…。そして、親戚から、奥歯にものがはさまった言い方で、「長男」のプレッシャーを受けてきたことも。
そのおかげで、心に少し巣食っていた「これで本当によかったのか」という迷いが消え、「これで解放される」との安堵感がじわじわと押し寄せたのだという。
家制度や古い価値観を背負った墓石はもうゴメンだ…。何か所もの都内の寺院墓地を見学した上で選んだ改葬先は、自らの信仰の拠り所であることに加え、参拝者が常に多く、読経も線香の煙も絶えないところ。「いずれ私自身も」と佐藤さんは思っている。
佐藤さんが利用した「まごころ価格ドットコム」は、母体が石材店で、全国の墓石職人と提携する会社だ。この6年間で墓じまいの相談や問い合わせが約3万件あり、とりわけこの1年は急増したそうだ。今年の6月に、墓石の解体処分と遺骨の取り出し、行政手続きの代行をセットにした「墓じまい基本パック」(2平方メートルまで18万8000円~※税別)、基本パックに自宅供養家具や遺骨のパウダー化などを付けた「墓じまいトータルパック」(5平方メートルまで36万8000円 ※税別)を用意した。
同社社長の石井靖さんは「墓じまいをしようとしている人たちは、先祖を永代まで管理できる環境を整えようとするのですから、決して先祖を軽んじようとするのではありません。逆に、先祖を大切にし、責任感のある人たちです」と話す。
では、墓じまいのタイミングはいつがいいか。
墓じまいの施工を手がけるNPO法人「やすらか庵」の代表で僧侶の清野勉さんはこう答える。
「私の経験上、ご先祖様が『もういいよ』と言ってくれる時が必ず来るので、その時です。と言っても、亡くなった人の声は聞けませんから、悩みながら『そろそろ』と痛感したり、偶然に墓じまい、改葬に関する本や雑誌記事を読んで納得した時かもしれません」
文/井上理津子(ノンフィクションライター)
※女性セブン2016年12月15日号