天災は忘れた頃にやって来る――これは物理学者・寺田寅彦の言葉だが、11月22日に東北地方を再び襲った大地震と津波は、5年8か月前の忘れもしない東日本大震災の恐怖をまざまざと思い起こさせた。震災以降、防災への意識は高まっていて、再び起こるかもしれない巨大地震への備えをしている被災者は多かった。果たして、教訓は生かされたのか。そして、今回の地震が突きつけた課題とは――地震直後の福島県いわき市を取材した。
避難する時には「徒歩」か「車」かも重い選択となる。3.11の時と同様、今回の地震でも、いわき市内では避難する車による渋滞が発生。ガソリンスタンドでは給油のための長い行列ができた。市が震災後に策定した地域防災計画では「徒歩での避難」を原則としているが、それは実践されなかったことになる。市の危機管理課の担当者はこう話す。
「いわき市は車社会で、どうしても車を必要とする人が多い。高台まで遠いとか、高齢者、体の不自由なかたなど、さまざまな事情を抱えている人もいます。今回、課題が浮き彫りになったので、渋滞が発生した時に逃げられる退避スペースを作るなどの対策も今後、検討していきたい」
災害危機管理アドバイザーの和田隆昌さんも「必ずしも徒歩がいいとは限らない」と指摘する。
「高齢者や足腰の弱い人、妊婦のかたなどは、無理に徒歩で避難すると非常に危険なので、むしろ車で避難するほうがいい。ただ、今回のように渋滞する可能性もあるので、あらかじめ裏道のルートを確認しておくなど、事前の準備は必要です」(和田さん)
久之浜地区にある高齢者施設「グループホームしおさい風の詩」では、入居者を避難させる際に車を使い、裏道を通って約900m先の中学校へ避難させた。
「避難ルートは震災の時に渋滞したので、裏道を使うことにしました。ほとんど車の通りがなくスムーズに避難することができました」(管理者の塚本博恵さん)