カルロス・ゴーン日産自動車CEOが、三菱自動車の会長に就任する。各報道は、ゴーン氏のやり手ぶりに驚くといった程度のトーンばかりだが、経営コンサルタントの大前研一氏はゴーン氏の就任は、企業のガバナンスとコンプライアンスにかかわる根本的な問題だと指摘する。なぜ問題があるのか、大前氏が解説する。
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三菱自動車工業を傘下に収めた日産自動車のカルロス・ゴーンCEO(会長兼社長)が、三菱自動車の会長に就任することになった。今月開かれる三菱自動車の臨時株主総会で正式決定するという。
これに関するマスコミの報道では「3足のわらじ」とか「ゴーン氏が金曜会(※)に出席したらどうなるか」といったお気楽な記事も見受けられた。
【※三菱グループ29社の会長・社長を会員とする最高決定機関】
しかし本件は、そういう次元の問題ではない。「そもそも1人の人間が複数の上場企業のトップを兼務してよいのか?」という企業のガバナンスとコンプライアンスにかかわる根本的な問題であり、なぜゴーン氏の日産・三菱トップ兼務を日本取引所グループが許容するのか、私は全く理解できない。
というのは、日本取引所グループは従来、1人の人間が複数の上場企業のトップを務めることを認めていないからだ。実際、企業が新規上場する時にはCEOだけでなく取締役の一人一人に関する兼務などの照査が行なわれ、「利益相反」がある企業との兼業は禁じられている。
今回のゴーン氏の場合は日産も三菱も上場企業である上に同業種だ。しかも日産は三菱の株の34%を保有して株主総会における決議事項への拒否権を持っている。この2社のトップを兼務することは、新規上場申請時だったら絶対に認められない。利益相反を生む可能性があるからだ。
とくに今回のケースでは日産が三菱に軽自動車の生産を委託しているので、その仕切り価格を意図的に操作すれば両社の利益を自由に上げ下げできてしまう。あるいは、最先端技術を日産と三菱が共同開発して生産は日産だけに行なわせる、ということも考えられる。これは日産と三菱のトップを兼務するゴーン氏が指示すれば可能なことだが、いずれも利益相反である。