数字の上でも堅調でも、内容への評価となると微妙な部分があるようだ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所の山下柚実氏が、話題の朝ドラについて指摘する。
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NHK連続テレビ小説『べっぴんさん』がスタートして2か月。すでに全体の3分の1が経過しました。平均視聴率は20%超。今週は自己最高の数字も叩き出し、安定飛行中と言えるでしょう。では、その評判は……。
「前作のように自己主張が過ぎたり、奇をてらうことがない」「しっとり落ち着いている」「登場人物が自然体」と肯定的な感想がある一方で、ヒロイン板東すみれ役・芳根京子さんの演技に「メリハリが無い」「表情が乏しい」といった辛口評も目立つ。
話の進展についても、「モタモタして遅い」「全体的に画面が暗い」といった厳しい感想が。
私自身、物語のモデルとなった子供服の草分け的メーカーのファン。スタート時から期待して見続けてきました。が、2ヶ月が過ぎる頃どうにも「暗さ」が耐えられなくなってきた一人。朝、このドラマに触れることで心のどこかが暗いトーンに染まっていくような、重たくなるような。であれば、敢えて毎日、積極的に見ようと思えなくなって……。
この「暗さ」の原因は、いったいどこにあるのでしょうか? 演出、脚本、構成の3つの点から考えてみると──。
●演出の意図とは?
「ヒロインの表情が乏しい、暗い」という点は、たしかにそうだと思います。しかしそれは芳根京子さんのせいというよりも、演出による影響が大きいはず。主人公すみれの、ちょっと引っ込み思案な性格と、スローで沈んだ画面とが響き合っているのです。
演出の影響について一番わかりやすい例をあげるとすれば、アイドルグループ・ももいろクローバーZの百田夏菜子さんが演じている、良子という人物でしょう。 ご存じのように、ももクロの百田さんはキャピキャピと明るく、はしゃぐイメージ、元気な女の子。しかしこのドラマの中の良子は、とにかくものすごく暗くてドヨーンとしている。悩んで下を向いている。
一人の百田さんが、光と影のように変化しているのです。こうも「別人」のように見えるとはちょっと驚きですが、まさにそれこそが「演出の力」でしょう。
役者は演出によって、まったく違うイメージになる、ということ。もちろん、演出家の意向を実現させる演技力が役者にあってのことですが。
つまり、このドラマから「暗さ」を感じるのは、演出による意図、と言えるのではないでしょうか。