戦後日本に本当の「チェンジ」が起ころうとしている。トランプ大統領の誕生によって、日本と米国はもちろんのこと、周辺国とのパワーバランスも新構築が必要になった。安倍外交は逆風を乗り切れるか。 作家・元外務省主任分析官の佐藤優氏が解説する。
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11月8日に行われた米国大統領選挙で共和党のドナルド・トランプ候補が民主党のヒラリー・クリントン候補(前国務長官)を破って当選した。
その結果、首相官邸と外務省の間に大きな亀裂が入っている。外務省は、大統領選挙前日の7日に杉山晋輔事務次官が安倍晋三首相に「大丈夫です。ヒラリー・クリントンが逃げ切って当選します」と報告していた。安倍首相や首相官邸幹部は、外務省が見通しを誤ったことに対して激怒している。クリントンに当選して欲しいという強い想いが、外務省の判断を誤らせたのだ。
日本、EU(欧州連合)、オーストラリアなどの政府は本気で思っていた。なぜならこれらの諸国は、現在の国際秩序が続いた方が、国益に適うと考えているからだ。他方、ロシア、中国、北朝鮮、イランなどはトランプの当選に期待していた。そうすることで、新たな国際秩序が生まれる可能性があるからだ。
トランプは政治家としての経験がまったくない。従って、過去の経緯や国際法に関する知識が不可欠である外交について、トランプはこれから猛勉強をするとともに、経験に富んだスタッフを集めるであろう。
トランプが大統領に就任する2017年1月20日後、具体的にどのような外交政策を展開するかについては、本人も現時点では決めていないと思う。いずれにせよ、「チェンジ」(「変化」)を公約に掲げたオバマ政権よりも、はるかに大きな変化がトランプ大統領の下で起きることは間違いない。
11月17日、米国ニューヨークで安倍首相がトランプと会談した。ニュースソースが限られているので、首相官邸はスピンコントロール(情報操作)で、安倍・トランプの信頼関係が構築されたと宣伝している。しかし、外交においては具体的成果のない信頼関係は存在しない。TPP(環太平洋経済連携協定)にしても駐日米軍に対する日本側の経費負担増大問題にしても先行きはまったく不透明だ。