「あんなひどい病院とわかっていたら、妻に手術は受けさせなかった」──。目を潤ませて語るのは、田中真人さん(26才・仮名)。田中さんの妻・由美さん(23才・仮名)は都内の産婦人科病院で手術を受けた6日後、急死した。結婚と出産という人生の喜びに包まれていた夫は、愛する妻と生まれてくるはずの子供を一挙に失った。若く、幸せいっぱいの夫婦に何が起こったのか。
2016年6月、交際5年の記念日を前に由美さんの妊娠が発覚した。「そろそろ結婚を…」と考えていたふたりは喜び、迷わず入籍と出産を決めた。由美さんはネットで調べて、評判のよかった東京・武蔵野市にある水口病院での出産を決めた。
同病院の個室は、天蓋付きの「お姫さまベッド」やヨーロッパ調の家具を完備。接客のプロである「医療コンシェルジュ」が患者のニーズに応え、退院前は院内でフルコースのフレンチディナーを味わえる。何度もメディアに登場する豪華な「セレブ病院」に、初めての出産を控えた由美さんの心がときめいたのだろう。
だが、田中さんによれば、由美さんは水口病院で、「胎児が育っていない」と診断されたという(水口病院は「少なくとも、当院が患者様にそのような診断をしたことはありません」と否定)。その時、まだ妊娠9週目。由美さんは診療後、すぐに田中さんにそのことを報告したという。
「夫婦で話し合って、やむなく人工中絶手術を受けることにしました」(田中さん)
人工中絶手術は胎児が子宮内で死亡している稽留流産の手術とは異なり、胎児にまだ命がある段階で行う。大きなショックを受けた彼女に田中さんは、「次に元気な子を産めばいいよ」と声をかけるのが精一杯だった。
ふたりは予定通り7月6日に入籍し、由美さんは2日後の8日に手術を受けた。それは決して難しくはない、10~15分で終わる手術のはずだった。仕事の都合で付き添えなかった田中さんはしかし、すぐに新婦の“異変”に気づいた。
「手術を終えて帰宅した妻は朦朧としていて、“お腹が痛い”と訴えて家事もできませんでした。その後も体調は回復せず、横になって休む日が続きました」(田中さん)
そして手術からわずか6日後の7月14日、田中さんの人生は一変する。仕事を終えて家路につく際、由美さんにLINEを送っても既読にならず、胸騒ぎを覚えて帰宅すると部屋の中は真っ暗だった。田中さんがいくら呼びかけても返事はなく、リビングや寝室にも妻の姿はなかった。