サーカスには欠かせない象も、最近タイ政府の協力を得られなくなった。仕方なくラオス政府と交渉してOKをもらったが、ラオスには海がないので船で運べない。そこで片道三〇〇〇万かけて空輸したのだという。
最後に、唯志社長はいたずらっぽく「キリンて首が長いのに、どうやって移動させているかわかりますか?」と訊いてきた。私がぼんやりと縦に長い箱のようなものを想像していると、唯志社長はこう言って笑った。
「キリンはね、伏せができるんですよ。そして首を巻いてコンテナに積むんですが、一時間ごとに高速のサービス・エリアで休憩をとりながらゆっくり移動するんです」
もし私が深夜の高速SAで、キリンが夜空に首をもたげて休憩しているのを見たら、夢でも見ているのだろうかとびっくりするに違いない。サーカスはまさに、夢を運んできているのだと思った。
【プロフィール】
木下大サーカス●1902年に初代・木下唯助が創立。2016年で114周年を迎え、累計で1億人を超える人々が公演を鑑賞している。
うえはら・よしひろ●1973年大阪府生まれ。『日本の路地を旅する』で大宅賞受賞。近著に、『一投に賭ける 溝口和洋、最後の無頼派アスリート』。
※SAPIO2017年1月号