元・宝塚歌劇団花組トップスターで、1998年に同劇団を退団後は、女優として活躍している真矢ミキさん(52才)。今回は、男装への思いについて語ってくれました。
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先日、ふとそんな気分になって、シャープなパンツスーツにネクタイをしめてみた。スーツは自前、ネクタイはなんと…夫のを無断拝借…うん、形状記憶。って何とも人が聞いたら信じがたい行動ですが(笑い)。なんだか体の細胞のひとつひとつが久しぶりにスーツの形に戻っていくような気がした。
私は10代後半から20年間ほど、“男”として過ごしてきた。(イヤイヤ、正確には男役)当時、舞台上ではもちろんのこと、プライベートでもスカートは1枚も持っておりませんでした。
従って20年近く、うら若き果実のような女性感強い20代を全部パンツスーツで走り抜け、闊歩してきたのだ。
宝塚の男役というのは長い歴史のなかの様式美というものがあって、私が入ったころは今より自由度も少なく、男役とはこういうものです、と歌舞伎の形(かた)のような男役像を日々学び習得していた毎日でした。
周囲を見渡してみると女子校出の子も多く、男役という中性的な魅力をすでにしっかり把握し、8割くらいは憧れの上級生、または洋画の男優さんなどをみて切磋琢磨していた。
それはそれで魅力的なんだけど、小、中と男女共学で育った私はいつも、もうちょっとリアルな男性をやりたいなぁと思いを募らせていました。中性ではなく、男役でもなく、そう! 男性になりたいのだと。
だから山手線に半日くらい乗ってぐるぐる何周かし、よれた襟のシャツ着たサラリーマンをずーっと見ていたり、歩く流行雑誌みたいな渋谷の交差点を行く男性陣を一日中眺めたり。
今思えば、私の20代は男性の魅力をただただ研究して過ぎた。特に、ダイレクトには魅力を押してこない日本男性に注目だった。
シャイで寡黙だけどハートの奥にはチリッと、いやジリジリッと、いや、仕事となるとメラメラッと熱いものを出してくるギャップがいいな…みたいな。
または、愛する女性を目の前に、一瞬、言葉をのんでいる時のうつむき加減の露出しない色気…などなど見つけ出したら止まらない私なりの目線、私なりの男性像を見つけていた。こうなったら進歩も早い(笑い)。