〈暗躍する裏社会の勢力、保身に走る上司。このままでは愛する銀行が潰れてしまう。その時──ひとりの男が立ち上がった〉(新聞広告より)
3000億円が闇に消えたとされる戦後最大の経済事件「イトマン事件」(*)の内幕を描いた『住友銀行秘史』(講談社刊)が、2016年10月の発売以来大きな話題を呼び、13万部(12月17日現在)を超えるベストセラーとなっている。
【*1991年、大阪の商社「イトマン」を舞台に不透明な絵画取引や不動産融資が行なわれ、3000億円以上の金が消えた巨大不正経理事件。河村良彦社長、伊藤寿永光常務、不動産管理会社代表の許永中氏らが特別背任容疑などで逮捕された】
著者は住友銀行(現・三井住友銀行)取締役だった國重惇史氏(70)である。
「國重氏は、住友銀行とイトマンとの間にあった不適切なカネの流れを内部告発し、事件解決へと導いたため、“住友銀行を救った英雄”とさえ呼ばれた。その國重氏が克明に記録していた手帳を基に当時の経緯を明らかにし、登場する70人もの関係者は実名。金融史に残る“暴露本”として大きな反響を呼んでいます」(メガバンク関係者)
その“英雄”が、25年経った今、著書がベストセラーになる一方で実生活では2つの民事訴訟に直面しているという。
事件後、國重氏は住友銀行の取締役に昇格。系列証券会社に転出した後、楽天の三木谷浩史氏に迎えられ2005年に同社の副社長に就任。その後、副会長となったが、2014年4月に辞任し、教育関連ベンチャーA社の取締役会長に就いた。
1つ目の裁判は、そのA社に関する金銭トラブルについての争いだ。
國重氏からA社の株式購入を要請された都内在住のB氏は2014年7月、1000万円をA社名義の口座に入金した。しかし最終的にA社株を購入しなかったB氏が返金を求めたところ、400万円しか返済されなかったため、B氏が残額の返済を求めて2016年8月に國重氏を提訴したというものだ。
國重氏は代理人弁護士を立てず、本人弁護で答弁書や準備書面を作成して反論。返済は法的義務を負うものでなく、あくまで個人的な好意から約束したと主張し、〈被告自身の資金繰りが厳しくなったことから支払いができなくなった〉と理由を述べている(以下、〈 〉内は裁判資料からの抜粋)。
B氏に取材すると、「もう國重さんのことには巻き込まれたくない。私はただお金を返してもらいたいだけです」と話すにとどまった。
2つ目の裁判は、國重氏の妻(現在は離婚が成立)と國重氏の愛人だった女性との間で争われている。
2016年8月、國重氏の不倫相手だったCさんが「プライバシーの侵害」などを理由に、妻のDさんに対し、154万円の損害賠償を求めて提訴したのだ。