「なんだかあまりにも電話が来ないから、こっちからかけちゃったわよ」
電話の主は樹木希林(73才)。これまで本誌は幾度かにわたって樹木に「がんと生きる」ことについて話を聞きたいと取材依頼をしていたが、そのたびに「頼むから、おばあさんのことは放っておいて」と固辞されていた。それにもかかわらず今回は樹木のほうから電話をかけてきてくれた。それは彼女が信頼を寄せているクリニックが、ある騒動に巻き込まれているからだった。
「インターネットでも、私の名前を検索すると、もう、オンコロジーって出てくるっていうから、まあ、それはそれで別に嘘でないから、しょうがないなと思っているんです。それで、向こう(『UMSオンコロジークリニック』、以下『UMS』)へ行くと、私はお礼を言われちゃってさ、病院のかたに。『週刊誌を見ました、どうもありがとうございました』とかって。『私は関係ありませんし、私に責任はありません』って言って、いちいちけんかしてるんだけどね。
でも、もう10年ですからね、そこ(UMS)との出合いは。植松先生は天才的なところがあるけれど、それで国が協力してくれるわけでもないし、またそういうのを上手にやる人でもないから、一代限りになっちゃうのかなぁ。でも彼を見てると、なんとなく別の人生もあるかなって思っているようなところもあるから、私も気楽でいいのよね」(樹木・以下「」内同)
そう樹木が「一代限りになっちゃうのかなぁ」と心配するクリニック――樹木の話をお伝えする前に、まずはその騒動の経緯から説明することにする。
鹿児島空港から車で約40分。県内一の繁華街にほど近い場所に立つ6階建てのこぢんまりとした建物が、樹木が全身がんの治療をしている『UMS』。2006年10月から診察を始めた比較的新しいクリニックだ。
ここでは日本で唯一の「四次元ピンポイント照射療法」が行われている。これはX線による「放射線治療」の一種。
病巣に四方八方から放射線を立体的にあてる「三次元照射」だ。その第一人者で、『UMS』のセンター長・植松稔氏が、呼吸によるがんの位置変化を追跡するという時間軸を加えた「四次元ピンポイント照射」の理論を構築したのだ。