長生きは本当に「めでたい」ことなのか。歳を重ねれば体の不調や気力の落ち込みを実感することも増える。
211万部の大ベストセラー『思考の整理学』の著者、外山滋比古氏は93歳にしてなお走り続ける。取材時も自らホテルのラウンジ席を予約した上で、闊歩して現われた。外山氏は自らの“老い”とどう向き合い、折り合いをつけているのか──。
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90歳になった時も自分では年齢を意識しませんでした。周りにうるさくいわれて、「90代っていうのは相当、年寄りなんだな」と初めて自覚させられました。
強調したいのは、年老いたら、やることがなければダメということです。僕の先輩たちも仕事を辞めた途端に老け込んでいる。昔の人は「悠々自適」を勧めたけど、それではすぐボケてしまいます。高齢者に暇ができたら非常に危険です。
大切なのは、新しい生き方を始めることです。それまでやってきた仕事や趣味の延長線ではなく、まったく新しい人生、それも職を変えるくらいでないとダメ。よく天下り先に再就職する役人がいますが、あれは最も愚かな行為です。多少の収入を得ても生きがいがなく、周囲も喜びませんから。
僕は90歳になった翌年に本を10冊出版しました。70代後半からものを書こうと決めていて、80歳以後は少なくとも年に7、8冊出しています。若い頃より著作は増えています。
その根底にあるのは、歳を取ったからこそ、若い時より忙しくする必要があるという考えです。
自転車と同じです。「ゆっくり走る」ことはむしろ危ない。ノロノロ走るよりは、思い切ってスピードを出したほうが安定して転ばない。止まればバランスを崩して転倒するでしょう。
なので、高齢者ほど年中無休で働かないといけません。サラリーマンみたいに週2日も休んでいたら、老化するばかりです。昔に比べて労働環境が改善され、働く時間は短縮されたけど、その分、人間の老化のスピードは進みました。仕事を辞めた途端、認知症になった英国のサッチャー元首相や米国のレーガン元大統領が典型的な例です。