料理番組『きょうの料理』(NHK)が2016年11月に放送60年目に突入した。かつての日本の食卓はどのようだったのか。家族が集まる年末年始に、時代とともに移り変わるわが家の食卓の昔と今を考えてみたい。
ここでは、1980年~現在を振り返ってみよう。1980年代に入ると「料理は女性が作るもの」というそれまでの固定観念が大きく変化し始める。
賄まかないつきの下宿が少なくなり、ひとり暮らしの男性は外食に頼るか自分で料理を作るしかなくなった。既婚男性でも、子供の学校などの都合で家族を伴わず単身赴任する機会が増えるなど、“男の料理”の需要が高まっていた。
『きょうの料理』に“男の料理”が誕生したのは、1983年。男女雇用機会均等法が制定される2年前のことだ。1979年から現在まで『きょうの料理』の番組制作に関わっている、現在フリーディレクターの河村明子さんが語る。
「番組で男の料理をタイトルに掲げることには、当初、スタッフの間でも賛否がありました。世の中には“男子厨房に入らず”という雰囲気がまだまだあったので。でも、実際に放送してみると、好意的な意見ばかりでした」
ほうれん草のおひたしやおにぎりといった、料理初心者の男性でも簡単に作れるメニューが人気を得た。一方、雑誌などでは趣味として料理を楽しむ男性のためのグルメ企画も増えていく。
それと同時に、女性の料理に対する考え方も変わっていく。共働き夫婦がさらに増加し、料理をする男性が増えてきたとはいえ、台所の主役はまだまだ女性。彼女たちは忙しく働きながらも、「手抜き料理」に対する後ろめたさが残っていた。
「そんななかで登場したのが、料理研究家の小林カツ代さん(享年76)でした。『きょうの料理』への初登場は1979年でしたが、ものすごい反響でしたね」
と河村さんは振り返る。「これでいいの」「この方が楽よ」という小林さんの“時短料理”は革命的で、多忙な女性たちの大きな救いとなった。
「例えば、かたまり肉を煮込む時は、最初に表面を焼き付けて、肉汁を閉じ込めてから煮込み、アクが浮いてきたら丁寧にすくうというのがそれまでの常識。
でも小林さんは、肉をフライパンで焼かずに、ぐらぐら煮立ったお湯にさっとくぐらせただけで、ハイ、終わり。“このほうがアクも出ないわよ”って。たしかに楽なんです(笑い)」(河村さん)