今年は狩猟で捕獲された野生の鳥獣を料理する「ジビエ料理」が本格的に定着するかもしれない。その予兆はある。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。
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この数年「第四の肉が来る!」というようなことを言い続けてきたが、2016年にはようやく牛、豚、鶏以外の肉に本格的に目が向けられるようになった。羊肉の名店で知られる神田「味坊」や池袋「聚福楼」もそれぞれ近隣に新店をオープンさせ、都内にはジビエ専門の会員制一軒家レストランも開業した。2017年、いよいよ牛、豚、鶏以外の肉が本格的に日本に定着する年になる。
長く続くブームが転換点を迎えるとき、そこには理由がある。
そもそも明治の文明開化で肉食が日本に定着して以降、日本人にとって「肉」と言えば牛肉だった。近代国家の建設を目指した明治維新政府は長くタブーとされてきた牛肉食を解禁。市中の牛肉店には「官許牛肉」の看板が並び、東京府下には麻布本村、芝三田、千住など6か所に屠牛場の開設が許可された。
ところが大正期に入ると特に関東では消費は豚肉にシフトする。そのきっかけとなったのは1904(明治37)年に開戦した日露戦争だった。「軍隊の糧食中最も緊要で最も力と頼む副食物は何であるかと云ふに、牛肉に越すものはありません」(京都府技師獣医学士古川元直「畜牛家の覚悟」(京都府臨時郡農会会長会に於る古川技師講話)と言われるほど、牛肉の評価は高かった。
生肉に関しては現地調達も多かったが、兵食となれば保存の効く缶詰が重宝される。国内での屠牛頭数は平均20万頭だったのが、開戦した年には28万頭と一気に40%も伸びた。