91歳の落語家・桂米丸
長生きは本当に「めでたい」ことなのか。歳を重ねれば体の不調や気力の落ち込みを実感することも増える。各界で活躍を続ける90代は、自らの“老い”とどう向き合い、折り合いをつけているのか──。
落語芸術協会の最高顧問である桂米丸(91)は東京・中野の自宅から地下鉄に乗って新宿の寄席・末廣亭の近くまでやってきた。弊誌・週刊ポストを手に取ると、若い頃と変わらぬツヤのある甲高い声で、「年寄りにはちょっと刺激が強いね」と笑った。米丸が「90歳」を語った。
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80歳になる直前に心筋梗塞が見つかり、「このままだと1か月持たない」と医者にいわれたね。それ以来、こっち(酒をあおる仕草をしながら)をきっぱりやめて、1日3食しっかり取っているけど、90歳になる時は黄疸になった。歳を取ると五臓六腑のどこかが悪くなるんだよ。
それでも、ここまで落語を続けられたのは師匠(5代目古今亭今輔)から「古典は上手な人が多いから、新作落語をやりなさい」と教えられたからです。師匠は自分の新作の十八番をどんどん弟子に教えて、他の師匠から「自分がやる噺がなくなるぞ」と心配されても、「いいよ。また十八番を作るから」と返す方で、ものすごいエネルギーと自信の持ち主だったね。
そんな師匠の教えを守り、今でも新作を作ってますよ。古典は覚えたものをずっと先まで使えて、やればやるほど上手になるけど、未完成の状態で披露して客の反応を見て内容を変えていく新作はそうはいかない。生活様式や社会はどんどん変わっていくので、新作は100本作って1本残ればいいほうです。
ウケる奇抜な話を作っても、すぐに現実が追いついてきちゃうのが悩みだね。鼓膜に穴が空いた人が、“細胞が再生して障子みたいに張り替えられたらいいのに”と話すネタを作ったら、医学が進んで実現しちゃった。車が自動運転になるネタや、大阪では関西弁のナビが活躍するというネタも現実になった。新作はそんなことの繰り返しだよ。