女性が被害者になる事件が起きると、必ず被害者を非難するような論調の発言を正論だと叫ぶ勢力がいる。だが、自分は被害者とは違うと非難する彼らもきっと、卑劣で手段を選ばない加害者の手にかかれば、簡単にだまされてしまうだろうとライターの森鷹久氏はいう。主に女性をターゲットとした容赦ない搾り取り方と、さらに新たな手口を備えつつある現状を森氏がリポートする。
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2016年6月、女性を無理やりアダルトビデオ(AV)に出演させたなどとして、都内の芸能プロダクションの元社長ら3人が逮捕された。この事実が明るみになったことで、人権系のNPO団体をはじめ、現役AV女優や関係者らからも声が上がり、多くのメディアが事件を取り上げたことを覚えている方も少なくないだろう。
被害者女性に同情的な声が多数を占める一方で、「女性も悪いのでは?」といった意見が散見された。彼女たちの多くは大人なのだから、仕事を放棄することだってできたはずだという、すなわち「無知な」被害女性に非があると考える人たちの言い分だ。だがそれは、あくまで、相手が普通に話が通じるまともな人間の場合にしか通用しないやり方だ。ところが女性に原因を求める人たちには、人を陥れるためなら何でもやる人間がいることを知らない。そして、卑劣な人間と対峙する難しさも知らない。
本当なら被害者を救済する場所であるべき世間からも、容易には受け入れられない。残酷な現実をつきつけられ、自分が被害に遭ったわけでもないのに筆者は暗い気持ちにさせられた。
それというのも、出演強要の被害に遭った女性たちは、筆者にとって、実は身近な存在だからだ。ティーン向けファッション誌の編集者だったころ、モデルとして登場してもらった女の子たちのうち何人もの人が被害に遭った。さらに出演強要していた側には、アウトロー系雑誌編集者時代に取材や企画で協力してもらった人間やその周辺者がいるからだ。
被害者の女性たちに騙された原因をヒアリングすると、風俗関係者やアダルトビデオ関係者側の、極めて卑劣な手法が浮かび上がってくる。
その手法は実に様々であるが、どのパターンにおいても共通するのは「弱者を狙い撃ちにして、搾取するもの」であることだ。その典型的なパターンとも言える卑劣な手法に引っかかってしまったマリカ(27・仮名)が明かす。
「十代で結婚し出産、二十代の始めで離婚。元旦那からは養育費は一銭ももらえず、パートや親の援助などでなんとか食いつないできました。唯一の楽しみは、ネットを通じて知り合ったシンママ(シングルマザー)サークルに参加すること」
元旦那から約束されたはずの養育費がもらえず、苦しく孤独な生活の中に潤いを与えてくれた「シンママ」サークル。当初はどこにでもあるような数名規模のアットホームなサークルであったが、次第に人数が増え、某テレビ局の取材を受けるまでになった。サークルの代表に取材話を持ちかけてきたのは、自称芸能事務所関係者のXだった。
Xと旧知の仲である人物は、Xの表の顔と裏の顔について次のように説明する。
「Xは”仕出し屋”といわれる存在。テレビや雑誌に出てくれるエキストラや素人さんを集める仕事をしていますが、これは表の顔。裏では、女衒まがいのことや、女の子を風俗業者に紹介することもやっています。裏で稼いだ大金を、テレビ制作会社や編集者の接待など表の仕事でガンガン使い、業界と太いパイプを築いたのです」
芸能事務所関係者を名乗るXとも自然に知り合いになっていたマリカの元に、程なくXとXの知人を名乗る人物から「モデルかタレントに興味はあるか?」との連絡が舞い込んできた。マリカには十代の頃にステージモデルの経験があったが、芸能活動といえるほどではなく、一児の母である今、まさか芸能活動を始めようとは微塵も思っていなかった。Xの強引な勧誘が始まったのはそれからだ。