主に高齢者が手術後や入院中に、突然点滴を引き抜く、暴れてベッドから降りようとする、意味が通じないことをしゃべるといった行動を起こすことがある。これが意識障害によるせん妄(もう)だ。入院中の高齢者の15~50%に起こるといわれる。せん妄は加齢や脳血流の低下などによる脳の機能低下に加え、感染症や脱水症などの身体的な負荷、手術や入院などのストレスがかかることで、脳が正常に働かなくなり起こる。
関東脳神経外科認知症研究会会長で、池袋病院(埼玉県川越市)の平川亘副院長の話。
「日本は高齢化が進み、救急搬送される患者の多くが高齢者という状況です。結果、増加しているのが入院患者におけるせん妄です。高齢者は、入院前から認知症を発症している例もあり、せん妄治療のために抗精神病薬を使うと認知症の症状を悪化させたり、時には命の危機に陥ることもあります」
認知症は、意識レベルよりも脳の働きが低下した状態を指すが、せん妄は意識レベルが落ちたために脳の働きが低下している状態だ。しかも、せん妄は突然発症するが、意識障害が改善すれば症状は消える。
せん妄が起こると通常は、鎮静させるために薬物を使用したり、手足を拘束してベッドからの転落を防止するなどの処置をする。しかし、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、せん妄や認知症を誘発する作用があり、治療したために認知症を発症し、入院期間が長くなり、ついには帰宅困難になるケースも多い。