街全体がうねるかのような光景だった。ソウル中心部・光化門広場で開かれた朴槿恵大統領退陣デモ。日本ではワイドショーの格好のネタとして面白おかしく報じられたが、古谷経衡氏は現場から異なった印象を持ったという。
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朴槿恵の即時辞任を求めるソウル市内のデモは、12月9日の弾劾訴追案可決と朴の今年4月での辞任表明を受け、収束に向かった。そのデモの最高潮は、すなわち12月3日であり、主催者発表で170万人・警察発表で32万人(共にソウル市内のみ)の最大級の熱狂を齎すことになった。矢も楯もたまらず渡韓した私は、正にこの日、デモの心臓部・ソウル市光化門広場に居た。
しかし日本側報道を見るにつけ、反朴デモには複雑怪奇の印象があった。朴に取り入って私利私欲を貪ったとされる崔順実なるオバサンを弓削道鏡とかラスプーチンに例えてもイマイチしっくりと来ない。
大統領のスピーチを民間人が推敲することは犯罪ではないし、その利益誘導の金額とて佐川急便事件やロッキードの比ではない。ウォーターゲートに比べれば朴槿恵の関与した「悪事」は小粒。だのに何故韓国人はああまで憤怒しているのか。
日本の夜のニュースで流れる映像にはまるで、アイドルのライブ参加者か何かのように、サイリウム(蛍光ペンライト)を左右に振りながら朴退陣を叫ぶ市民の姿ばかりが目立った。どうせ韓国によくある「道徳的糾弾」という奴の一種で、辞任要求に仮託した“祭り”つまり韓国版ハレといった処であろう、とタカを括っていた。