昨年8月の天皇陛下による「お言葉」を受けて、政府は「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」を立ち上げ、昨年11月に皇室制度や歴史、憲法などの専門家16人から意見聴取した。そして12月14日、有識者会議は、天皇の譲位を恒久的な制度とする皇室典範の改正ではなく、現在の天皇陛下に限って譲位を可能にする特例法の整備を政府に求める方針を固めた。
有識者会議16名のうち皇室典範の改正などで恒久制度化すべきと発言したのは元朝日新聞皇室担当記者でジャーナリストの岩井克己さん、大石眞・京都大学教授ら4名だけだった。
専門家へのヒアリングでは、「将来(の天皇)にわたって退位を認めるのは結論を得るのに時間を有する」(石原信雄元内閣官房副長官)など、「皇室典範改正に時間がかかるから特例法で行う」との意見もあった。たしかに陛下の年齢を考えると、特例扱いで一刻も早く制度化すべきという意見も一理ある。
だからといって、陛下の意向を無視したやり方であっていいはずはない。世論調査でも7割の国民が皇室典範の改正に賛成している。岩井さんが批判する。
「譲位を望むのは陛下の“わがまま”ではありません。国民や将来の皇室のことも考えたうえで、制度そのものを変えるべきという責任感から出た意見です。それなのに特例法でやるというのは、一時の抜け道をつくる安易なやり方です」
注意すべきは、この問題には「政治的思惑」が見え隠れする点だ。なぜ、国民と陛下が望む恒久的な制度改革に政府は消極的なのか。岩井さんは、「女性天皇」という難問が浮上するのを避けるためだと主張する。
「根本的な問題は、次の次の世代の皇位継承者が悠仁さましかいないことです。これまでも小泉内閣で女性天皇や女系天皇、野田内閣では女性宮家創設が議論されましたが、安倍内閣で棚上げにされました。もし、天皇の譲位問題で皇室典範を改正する動きになれば、棚上げにされた女性天皇や女性宮家創設を求める声が再浮上する可能性もある。これに反対して、一貫した男系の血筋を守るために敗戦で皇室を離脱した旧皇族系男子の復帰を主張する安倍首相や支持者の保守層には受け入れがたい。だから有識者会議には特例法を前提に制度改革を最小限にする方向で話を進めてもらいたいんでしょう」
女性天皇が争点になれば、国論を二分する騒動になる。それを避けるため、政府は陛下のご意向を無視して、譲位問題を一時しのぎの特例法で処理しようとしているという見立てである。
しかし、皇室典範を改正せず、特例法で一代限りの譲位を認めても、皇室制度には依然として大きな課題が残る。