2016年九州場所、大関・豪栄道の綱取りで湧く中、3度目の優勝を決めたのは、横綱・鶴竜(31才)だった。ここ2年ほど、けがに苦しんだ末の7場所ぶりの優勝。土俵下での優勝インタビューでは、
「これまで腐らずにやってきてよかった。2年前に止まっていた時間が動き出した」
と、流暢な日本語で声援に応えた。今、大相撲界の横綱は白鵬(31才)、日馬富士(32才)、鶴竜ともにモンゴル人。優勝37回の王者・白鵬、闘志むき出しの日馬富士に対し、鶴竜はどちらかというと地味な印象だった。それでも、時折見せるかわいらしい表情から、隠れニックネームは「わんわん」。女性ファンからの支持は圧倒的だ。
「もう30(才)を超えているし、結婚して子供もいるんですけど、『かわいい』なんて言ってもらっていいんですかね(笑い)。愛称(の、わんわん)はもちろん知ってますよ。気になってしまうので、SNSは極力チェックしないようにしてますけど(笑い)」
と、はにかむ鶴竜。モンゴル・ウランバートルに生まれた彼が、日本の大相撲に入門したのは、15才の時。モンゴル人力士の旭鷲山、旭天鵬(現・大島親方)らの活躍ぶりをテレビで見て、力士に憧れたのだ。
「子供の頃から、まったく相撲の経験はありませんでした。中学生の時、力士志望の少年を集めた大会に出たのですが、いい結果を残せなくて…。それで、自分なりに考えた結果、日本の相撲関係者に手紙を書いて、『入門したい』と伝えることにしたんです」
当時、鶴竜の父親は、ウランバートルの大学で教授を務めていた。同じ大学の日本語教授に翻訳してもらった手紙を2か所に送り、運命的にたどりついたのが、井筒部屋入門への道だった。
「とにかく力士になりたい、その一心だったんです。だけど、その時は身長173cmで、体重が65kgくらい(当時の入門規定は、体重75kg以上)。新弟子検査を受験するまで、食べて、食べて、体を大きくして、なんとか合格した時は本当にうれしかったですね。