中国や北朝鮮の挑発をかわし平和を揺るぎなくするためには何が必要なのか。歴史学者・山内昌之氏が5冊を選んだ。
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戦争は起こしてはならないものだ。しかし、戦争は平和と不可分の歴史的事象である。中国や北朝鮮の挑発をかわし、平和を揺るぎなくするには、戦争の愚行を原因と本質に遡って多面的に理解する必要がある。
戦争は理論だけでなく、具体的な事実として歴史に依拠して考える必要がある。このためには、歴史書を読むだけでなく、戦史や戦況に基づくルポ文学によって戦争理解の前提と知識を豊かにして、心構えを堅固にする必要がある。
こうした点に鑑みて、残念ながら今回は司馬遼太郎『坂の上の雲』や大岡昇平『俘虜記』のような小説はあえて割愛した。大岡であれば『レイテ戦記』を取り上げたいところだが、微細に戦況や指揮の在り方を描いたこの作品は別の機会に詳しく紹介したい。
戦争を指揮した将軍の回顧録や伝記は入れなかった。事実と違う自慢話が多く、反省を欠いた作品も多いからだ。このためにアラビアのロレンスの『知恵の七柱』も除いた。『平家物語』や『太平記』など日本の古典は、別に本格的に扱われるべきであろう。
【原則として書籍データ中の年は原著や初版の刊行、発表、執筆、成立などの年。版元は主要なもの】
「戦争とは、政治の延長である」
『戦争論』/クラウゼヴィッツ著/1832年~1834年/岩波文庫・上中下/篠田英雄訳
戦争とは何かを省察した著作。戦争とは、別の手段をもってする政治の延長だというのだ。日本でも森鴎外が紹介して以来、知られるようになる。ただし、本場のドイツの将軍たちには難解で実戦に役立たない学者先生の仕事だと評判が悪かった。むしろ最大の理解者は政治家から現れた。誰あろうドイツ統一の指導者ビスマルクである。
「毒を帯びた予言の書」
『最終戦争論』/石原莞爾著/1940年・中公文庫
著者は、満州事変の首謀者にして帝国陸軍きっての戦略家だった軍人。戦史研究と日蓮信仰との混淆から生まれた特異な戦争論。日米の最終決戦によって戦争が地球から姿を消して永久平和の時代が訪れるという予言の書でもある。原爆や人工衛星の誕生も予見していた。毒を帯びた書物とはいえ、現代人が読んでも面白い。