神奈川県小田原市の生活保護を担当するケースワーカーの職員らが、「保護なめんな」などとプリントしたジャンパーを着て生活保護家庭を訪問していたことがわかり、問題化した。フリーライター・神田憲行氏が考える。
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問題となったジャンパーは黒色で、胸にエンブレムとともに「HOGO NAMENNA(保護なめんな)」、背中に英文で「私たちは正義。不正を見つけたら追及する。私たちをだまして不正によって利益を得ようとするなら、彼らはくずだ」と記されていた(訳文は朝日新聞1月18日より)。
英文だから気付かれにくいと考えたのかも知れないが、エンブレムは「悪」の漢字に×印がつけてあるなど、かなり威圧的である。これで生活保護家庭を訪問していたという。彼らは「ゴーストバスターズ」ならぬ「不正受給バスターズ」気取りだったのではないか。ケースワーカーとは生活保護を求める人々の相談に乗り、自立を支援する仕事のはずだが。
ジャンパーを作ったのは07年、生活保護の支給を打ち切られた男性が市役所で暴れて職員たちを負傷させる事件がきっかけだった。どんな事件だったのか、当時の朝日新聞の記事をかいつまんで紹介する。
事件を起こしたのは無職の61歳の男性だ。市役所2階の窓口を訪れて、「生活保護を打ち切られた」「保護費を入れろ」と騒ぎ、応対した職員を杖で殴り、駆けつけた2人の職員にカッターナイフで切りつけた。杖で殴られた職員は軽い打撲、カッターナイフで切りつけられた職員は腹と手に軽いケガを負った。61歳の男性は傷害の疑いで現行犯逮捕されている。
生活保護が打ち切られたのは、この男性が最後に保護費を受け取ったあとに住所不定になり、受給要件を失ったためだ。市はこの男性に「住所がなくなると保護費の受給ができなくなる」と電話や面談で4回説明し、市でアパートを用意したが、指定の日に来ず連絡が取れなくなったという。それで生活保護費の廃止措置が取られた。
事件後、士気を高めるために当時の担当課長の発案でジャンパーを作るアイデアが出され、職員たちが自費で購入したという。デザインの意図は神奈川新聞の報道によると「自分たちの自尊心を高揚させ、疲労感や閉塞感を打破するための表現だった」という。
4回も説明してアパートまで用意したのに来ず、それで暴れてカッターで切りつけられるとは、市の職員の憤りは理解できる。しかしそれでもなお、このような士気の高め方は間違っている。また、このようなジャンパーを作成して着用して仕事に従事することは、自らの仕事を貶める行為だと考える。