ニッポンの大問題である「憲法」。知的刺激に満ちて抜群に面白い憲法本4冊をジャーナリスト・東谷暁氏が選んだ。
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憲法学者の『憲法学』『憲法原論』の類をいくら読んでも、その講義を何度聞いても分かったような気がしない。そもそも、さっぱり面白くない。しかも憲法学者は左派でも右派でもそれは同じなのだ。
いわゆる主流派といわれる東大系の憲法学者はもとより、傍系の憲法学者の書いたものでもほとんどの憲法学は「日本国憲法は守らねばならない」という点で一致している。呆れたことに改憲を唱えている少数派の憲法学者が書いた本でも、概念の選択や論理の組み立ては護憲派と瓜二つ。
たとえば、政治学や社会学で、学派がちがっても概念や論理が同じなんてことがあるだろうか。そして繰り返すが、他の社会科学の場合には、希に面白い本もあるが、憲法学に限っては面白い本なんかありはしないのだ。
護憲派は改憲反対を唱えていればよく、改憲派もポツダム宣言の「自由、平等、人権」を疑っていないのだから、スリルもなく知的刺激もないのが当然だろう。憲法について楽しく考えるには、憲法学者の憲法学以外から、面白い憲法の本を探すしかない。
「護憲派と改憲派双方の欺瞞を批判」
『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください』/井上達夫著/2015年/毎日新聞出版
リベラリズムの唱道者が九条の削除を主張したことで注目されたが、井上はすでに十数年前から同じことを論じていた。護憲派と改憲派の双方の自己欺瞞を批判。リベラリズム研究者が改憲を言い出したということより、井上が自らの思想にしたがって首尾一貫した議論を展開していることが素晴らしい。だから、この本は面白いのだ。
「明治憲法の復活を主張。その狙いは?」
『国家とは何か』/福田恆存著 浜崎洋介編/文春学藝ライブラリー/2014年(「当用憲法論」の初出は1965年)
現憲法は当時の状況の圧力で作られたが、当用漢字が作られた経緯と同じで、だから「当用憲法」なのだという。しかし、現憲法は明治憲法の改正手続きで生まれたのだから、現憲法を廃棄すれば明治憲法が復活する。それを自分たちで改正すべきだと論じた。明治憲法の復活というより、日本人の「憲法意識」の復活を課題としている。