2016年下半期を代表するベストセラーとなった『九十歳。何がめでたい』(佐藤愛子著)。昨年8月の刊行以来、わずか5か月あまりで46万部を突破した異例のヒットの裏には、この本に笑ったり泣いたり励まされたり。本書の言葉を借りるならば、「ナニがめでてえ」と言いたくなるような困難と、それにもめげず本書の金言を座右に強く生きる読者の姿があった。
編集部にも昨年8月の刊行以来、3000通近い読者からのはがきが寄せられている。そこには、この本を読んで笑ったり泣いたり、「そうだ、そうだ」と共感したり、びっしりと感想が書かれたものがほとんど。自らの苦しい境遇や家族の姿を重ね合わせ、元気になったと綴ったものも多い。
関西に住む65才の宮本美子さん(仮名)は、「私の人生、どこが間違っていたのか」「自殺したい」と言い募るようになった90才の母親の気持ちが知りたくてこの本を手に取ったと綴った。宮本さんが言う。
「母と同居するようになったのは今から3年前。主人が亡くなり、子供も独立しましたので、足の具合が悪くなった母をこのままひとりにしておくのは無理だと思って、私が40年ぶりに実家に帰ってきたんです。帰って来た当時は昔と変わらず面白い母で、私が『お母さん、顔も剃らないとひげが生えてるよ』って言ったら、『人間偉くなったら、男でも女でもひげが生えるねん』って(笑い)。ところがだんだんウツの状態になって…」
佐藤さんも本書で、小説『晩鐘』を書き上げて断筆すると、気が滅入り、ウツウツとして「老人性ウツ病」のようになったと綴っている。
「母は同じことを何回も、特に嫌なことを思い出しては私に言うんです。こんな人じゃなかったのにって、母のことが段々わからなくなりました。
それでこの本を読んだのですが、母の気持ちはこうなのかって、なるほどと思いましたし、私がわからないはずだということもよくわかりました。同世代の友達が1人欠け、2人欠け、昔のことを話す相手もいなくなって、母は孤独になっていたんですね」