正月競馬も一段落、今週からは、それぞれの目標に向けて、毎日の地道な調教の積み重ねが問われる。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、調教で欠かせない大事なことについて、お届けする。
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レースが本番で調教は練習。他のスポーツに置き換えると、調教にはそんなイメージがあるのかもしれません。練習は厳しい。「練習で苦しめば試合はラク」というスポーツの精神性もありますが、競馬の場合は少し違います。
調教の要諦は「走らせすぎない」です。端的にいえば、競走馬に必要な能力は真っすぐに速く走ることだけ。これさえ磨けば競馬では必ず勝ち負けに持ち込めます。
しかし、調教で「真っすぐ、速く」を許しすぎると、馬は暴走してしまう。すると足が壊れてくる。疲労から骨折したり、腫れて痛みが出るエビ(屈腱炎)になったりするわけです。
暴走する原因はストレス。鞍をつけて人が乗ることが馬にとっては負担です。放牧地では骨折するまで走ることはありません。
人が乗るストレスから逃れたい。だから走る。前にも触れましたが、馬は走ると気持ちが落ち着くのです。「鞍上が満足するように速く走れば、早く調教が終わる」と感じているかもしれません。
調教コースがストレスに拍車をかけます。朝、一斉に馬が出てくるので慌ただしい。競馬に使われる馬がイライラしていたとすると、ネガティブな雰囲気を吸収してしまうこともあります。
そこで調教師は鞍上にスピードコントロールの指示を出します。時間を区切ってケガの危険性を少なくすることが調教の大前提。そこから、馬に合わせた調教メニューを考えます。