二刀流の大谷翔平を擁し、昨シーズンは奇跡的な大逆転でリーグ優勝、続く日本シリーズも制し日本一になった北海道日本ハムファイターズ。今年も采配をふるう栗山英樹・監督の戦術には「歴史観」が大きく関わっている。本誌・週刊ポスト連載「逆説の日本史」を25年にわたって執筆中の作家・井沢元彦氏と栗山監督との対談から、戦国時代の大名とプロ野球監督との共通点、好きな戦国武将について語り合ったを紹介する。
栗山英樹(以下、栗山):今回、先生にぜひ聞きたかったんですが、天下を取った人たちには、やはり天才的な名参謀が周りにいたんですか?
井沢元彦(以下、井沢):織田信長は一人で何でもやるタイプでしたが、最後は自分が神になろうとして失敗した。それを見ていた徳川家康は天海僧正(家康の側近だった僧)に政策を任せるんです。適材適所で。それで家康は成功したんです。
栗山:天海僧正は長生きだったそうですね。
井沢:108歳まで生きたと言われています。ちなみに、家康も当時としては長命の74歳まで生きた。家康は健康オタクで、鷹狩りをスポーツとしてやっていた。汗をかくことが体にいいと分かっていたんですね。
栗山:鷹狩りはスポーツですか。
井沢:スポーツであると同時に、軍事演習でもあったんです。敵の陣地を偵察したり、領国の地形を知ることにも役立つ。信長が桶狭間の戦いで勝てたのも、鷹狩りで地形を熟知していたからだと言われています。
栗山:それこそデータ戦術ですね。よく「監督には勘が必要」と言われますが、僕は勘はデータから生まれると思っています。データの蓄積の中から、試合中にぽろっと出てくるものだと。
僕はプロ野球監督とは戦国時代の大名に似ていると思うんです。目の前の戦いを勝ち切っていくことで、自分のポジションを確立していくという点が。
井沢:好きな戦国武将は誰ですか?
栗山:大谷吉継(豊臣秀吉の家臣)ですね。美談ばかりが伝えられていて、本当かなと思ってしまうぐらいです。史実はどうなんですか?
井沢:実際に人格者だったみたいですね。あの時代の大名や武将って英雄扱いされている人でも陰で悪いことをしてるとか、女好きだったとか、何かしら悪い逸話も残っている。ところが大谷に限ってはそうした話を聞かない。
栗山:大谷吉継のように義があってブレない人って、出世する前に潰されたりしちゃうじゃないですか。でも義を貫いたままで後世に名を残せたという生き様に憧れるんですよね。
井沢:名字も「大谷」ですしね(笑い)。
栗山:そうなんです(笑い)。実は興味を持ったきっかけは大谷つながりだったんです。それで調べてみたら、この人はすごくいい人物だとわかって、好きになったんです。
※週刊ポスト2017年2月10日号