先進国で、「医療」は大きな転換期を迎えている。病気を患ってからの「治療」ではなく、「予防」の段階に力を注ぐほうが国民の健康寿命は延び、医療費も削減できるからだ。にもかかわらず、日本には「予防後進国」という状況がある。医療機関にとっては予防よりも治療の方が3倍も実入りが多いといわれるからだ。
日本人の死因1位である「がん」での構図はまさにこれに当てはまる。これまで手術や抗がん剤などで「治す」ことに焦点が当てられてきた。手術・投薬に高額な医療費がかかることは改めて説明するまでもない。一方で、がんを「防ぐ」ための策は普及が遅れてきた。その象徴がB型肝炎ワクチンである。
B型肝炎ウイルスに感染したまま放置すると慢性肝炎になり、肝硬変や肝臓がんへ進行する。肝臓がんは年間約3万1000人の死亡者がおり、男性では肺がん、胃がんに次いでがん死のなかで3番目に多い。
WHO(世界保健機関)は肝臓がん予防のため、1992年に「すべての出生児にB型肝炎ワクチンを接種すること」を推奨し、2009年までに世界177か国で定期予防接種が始まった。しかし、日本では昨年10月以降に生まれた0歳児を対象にようやくB型肝炎ワクチンの定期接種が始まった。欧米諸国と比べ、かなり遅れてきた状況がある。
年間約5万人が死亡する胃がんは、医師や医療機関などの既得権のために、「予防軽視」が続いてきた状況がよりはっきりしている。「治療」の方が「予防」よりも実入りが多くなる実態があるのだ。