ライフ

世界安楽死事情 1年で80人を旅立たせた医師の告白

ブライシック氏との対話(右は筆者9

 この1年、ジャーナリストの宮下洋一氏はスイス、オランダ、ベルギー、アメリカ、スペインを訪ね、その国々の安楽死事情を見てまわった。それは1年前、スイス・バーゼルで旅立ちの現場に立ち会って以来、筆者を揺さぶり続けた「死ぬ自由を認めるべきか否か」という問いへの答えを探す旅だった。連載最終回の今号では、スイスを再訪し、自殺幇助団体「ライフサークル」代表・プライシック氏に、“旅の成果”を報告する。

 * * *
 スイスで初めて安楽死の現場に立ち会ったことは、私の死生観を一変させる「悲劇」だった。老婦が旅立つ前日に語った言葉が脳裏に焼き付いている。

「もし私が満足のいく人生を送ってこなかったら、多分、もう少し長生きしようと思うかもしれないけれど。せっかく良き人生だったものが、身体の衰弱で失われる。それだけは避けたいの」

 あれから、1年が経つ。私は、この間、各国の現場を訪ねてきた。安楽死を知ることはその人の死生観を知ることであり、そこには各国の価値観が色濃く反映されていた。ただし、取材を重ねるなか、一つの疑問も生まれた。医師が法律によって免責されているからといって、その医師が安楽死の条件が揃っている患者の息の根を止める資格はあるのか。

 1年前、女医は、こう言った。「私の考えをあなたに押し付けるつもりはない。いろんな人を取材し、さまざまな考えに触れなさい」と。旅を締めくくるため、私は、2016年12月7日、スイスのプライシック女医のもとに再び足を運ぶことにした。そしてこの地で、また1人、死を求める全身麻痺のドイツ人女性に会うことが約束されていた。

 早朝7時、気温マイナス5℃で、濃霧が立ち込めるバーゼル市内の喫茶店で熱いコーヒーを飲み終え、女医が住む郊外に向かう路面電車に乗った。女医は、数日前にスキーで滑落し、車を運転できないとのこと。私は、記憶をたどって、彼女の自宅まで歩いてみた。

「ヨーイチ、久しぶりね!」

 松葉杖をついて歩く女医は、いつものように私を笑顔で歓待した。朝から多忙を極める彼女は、早速、私を仕事場まで連れて行く。聞けば、この1年で80人に自殺幇助を施したという。

「実は、あなたに話していた患者だけど、診察の間もずっと泣いていたわ。とりあえず、彼女のいるホテルに行って話だけはしてみてください」

関連記事

トピックス

歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン