得意ネタ「ヤホー漫才」で知られる塙宣之(立ち位置向かって左)、土屋伸之(右)の漫才コンビ・ナイツ。ボケの塙が「言い間違い=小ボケ」をこれでもかと積み重ね、それに対し、相方の土屋が軽妙にツッコむ(間違いを正す)というスタイルだ。
ナイツの主戦場は、東京・浅草だ。
浅草フランス座演芸場東洋館──浅草公園六区にあり、長い間ストリップ劇場として有名だったところだ。無名時代の井上ひさしが劇場座付き作者を務め、若かりし頃のツービートが舞台に立った場所でもある。
現在は、都内唯一のいろもの寄席であり、青空球児・好児や昭和のいる・こいるといったベテランから若手まで、「漫才協会」の面々が毎日舞台に立っている。そしてこの「漫才協会」の中心メンバーが、ナイツなのだ。実際、塙は副会長、土屋は理事の要職にある。
塙は2007年、史上最年少で漫才協会の理事に就任。言い間違い漫才も完成の域に達し、翌2008年から、若手漫才コンビ日本一を決める「M-1グランプリ」に3年連続で決勝に進出した。この頃から、ナイツここにあり、と世間に認知されるようになった。
現在2人がパーソナリティーを務める『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』(TBSラジオ、毎週土曜9~13時)は4時間生放送。聴取率は同時間帯でトップを誇る人気番組となっている。
ナイツの漫才に話を振ると……。
「えっ? 世間では『土屋のツッコミが絶妙だ』と評価が高い?」(塙)
「この指摘には、塙さん、黙っていませんよ(笑い)」(土屋)
「(ため息)素人はツッコミに目が行くからなあ……。僕がネタ作りをしていますが、ボケを8でとどめて、土屋がツッコんだ時にマックス10の面白さになるようにしています。ボケが面白さを全部持ってっちゃうと、ツッコミは『うるせぇ』ぐらいしか言いようがない」(塙)
「漫才のネタは、ボケが作ったほうが絶対に面白いんです。ツッコミが作ると、『ボケを言わされてるだけ』というのがお客さんに見えちゃいますから。塙さんが楽屋でネタを作ってる間ですか? 寝てます(笑い)」(土屋)
二人は一緒に練習をしない。塙の書いたネタを元にそれぞれ個人練習を行ない、ぶっつけ本番であわせる。信頼のなせる業だ。
「僕のボケは客席を見て、ずっと喋り続けてるだけですからね」(塙)
「僕はお客さん側に立って、お客さんの気持ちでツッコミを入れる」(土屋)
「練習すると、ボケが新鮮でなくなるんですよ。相方にもお客さんにも『塙、何言い出すの?』って思われないと、予定調和で面白くないんです。寿司に例えると、毎回わさびの加減を変える感じ」(塙)
「まあ、お客さんにとっては、どっちがネタを作ってるかなんてどうでもいいことですから。そんなこと関係なしに、すっと入ってくるのがいい漫才だと思います」(土屋)