釜山の日本総領事館前に置かれた「少女像」が、融和に向かいつつあった日韓を再び引き離そうとしている。政府や自治体の制止を振り払って像設置を進めたのは、釜山の学生団体である。代表は、22歳の女子大生。その真意を訊くべく、ジャーナリスト・織田重明氏が釜山に赴き、渦中のキーマンに直撃した。
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「撤去しろと言われても、絶対に撤去しません! そもそも少女像は釜山市民だけでなく韓国国民の意志で建てたもの。政府に命令を出せるはずがありません」
断固としてそう語るのは、馬禧陳(マ・ヒジン)氏(22)。釜山大学に通う女子大生(3年)であるが、昨年末に釜山の日本総領事館前に少女像を設置した市民団体「未来世代が建てる平和の少女像推進委員会(以下、推進委員会)」の代表である。
釜山の表玄関である釜山駅から歩くこと数分で日本総領事館がある。高さ2mを超える白い壁に囲まれた総領事館前の歩道上にその像があった。ザクザクと短く切られた髪に握りしめた拳、そして裸足と、ソウルの日本大使館前に2011年に設置されたものと瓜二つのデザイン。いずれもソウル郊外に工房を持つ芸術家夫妻が制作したものだ。
少女像の側には数名の男たちがいる。なにやら市民に声をかけているようだ。
「ぜひ像の隣の空の椅子に座って日本総領事館を睨みつけてください」
男たちは像を設置した推進委員会のメンバーだという。昨年12月28日に設置しようとしたが、地元の釜山市東区当局によっていったん撤去されたことから、再度撤去されることがないか監視しているのだ。
設置のための募金活動から東区による撤去に対する大々的な抗議、そして再設置。これら活動を取り仕切った推進委員会の実質的な代表が馬氏である。
彼女たちに真意を聞くべく、目指したのは、釜山中心部の目抜き通り沿いにある雑居ビル。三階に上り、中の様子をうかがうと、学生たちがミーティングをしていた。近くにいた学生に声をかけて名乗ると、馬氏が現れた。しばらく押し問答の後、インタビューを受けることを承諾した。
ショートヘアに黒縁の丸メガネで、華奢な体つき。とても運動のリーダーのように見えない。ごく普通の学生だ。だが、その口からは強烈な言葉が飛び出す。
「釜山で少女像を設置しようという動きは、2015年末の韓国と日本の合意の直後に始まったのです。慰安婦のおばあさんたちに事前に何も知らせず、急に決めたこの合意で、慰安婦問題は最終的に解決したとされました。安倍晋三首相が真心から謝罪をしようともしないのに! 日本政府が拠出した10億円は法的賠償でもなんでもない。こんな屈辱的な合意ってあるでしょうか。韓国政府はとんでもない過ちを犯しました。日本政府に慰安婦が性奴隷だったという歴史的事実を認めさせるために像の設置が必要だと考えたのです」