他人のたばこの煙を吸い込んでしまう受動喫煙の防止強化を図ろうと、あらゆる施設で“屋内禁煙”を義務付ける新たな法案(健康増進法改正案)が国会に出されようとしている。
学校や病院、福祉施設や官公庁など誰もが訪れる公的な施設は、敷地内全面禁煙や屋内禁煙の徹底が厳しく求められていく方向だが、賛否が大きく割れているのは、飲食店やホテルなどサービス業に対する規制強化だ。
利用者自らが多様化するサービスを見極め、自分の嗜好に合わせて行くか行かないかを自由に選択できるのがサービス業の本質ともいえるため、飲食業界を中心に「公共性の高い施設とは大きく異なる。一律規制は相応しくない」と反発を強めている。愛煙家・嫌煙家ともに大切なお客さん。喫煙・分煙・禁煙の飲食環境は、あくまで事業者側の経営判断や、客層に応じた自助努力に任せるべきとの主張だ。
いまのところ、飲食店やホテル、駅・ビルの共用部分、電車内といった屋内については、四方を密閉したうえに煙を外部に排出できる「喫煙室」の設置は認められる予定だが、事はそう簡単ではない。
日々の売り上げ確保にさえ汲々とする中小の事業者にとっては、基準を満たす分煙装置の導入費用を捻出する余裕がない。そもそも、飲食店の中には店舗面積が狭く、とても喫煙室など置けるスペースがないところも多い。
2010年に全国で初めて受動喫煙防止条例が施行された神奈川県では、こうした中小零細業者の事情を汲み取り、床面積100平方メートル(30.25坪)以下の飲食店や700平方メートル以下の宿泊施設などは「特例施設」として、分煙または禁煙を“努力義務”にとどめている。同様の条例を築いている兵庫県でも、事業規模により分煙義務・努力義務を区分けしている。
仮に、今回厚労省が出そうとしている法改正に、神奈川や兵庫のような特例措置がつかなければ、中小事業者の多くが否応なく“屋内全面禁煙”に追い込まれることになる。東京・墨田区で小さな居酒屋を構える店主(52)は、「快適な喫煙スペースを設けた大手チェーンに客が流れるのは目に見えており死活問題だ」と憤る。
店の規模でいえば、この飲み屋街に喫煙室を設けるのも、まず不可能だろう。昔から著名な文化人やマスコミ関係者らのオアシスとなってきた「新宿ゴールデン街」だ。
カウンターに10人も座れば満員、3~5坪という狭小な木造店舗が約280軒以上も密集するゴールデン街。その一帯は、昭和の懐かしい佇まいを今に残し、酒とたばこをこよなく愛する常連客が集う。
ゴールデン街で「BARダーリン」を営み、新宿三光商店街振興組合の理事長も務める石川雄也氏(43)がいう。