【著者に訊け】夏川草介氏/『本を守ろうとする猫の話』/小学館/1400円+税
本が好きで、猫が好き。そして人間も好きでいたいから、夏川草介氏はいつになく怒っているのだろう。自身、松本で地域医療に勤しむ医師で、デビュー作『神様のカルテ』は研修医時代の経験が書かせたこと。映画で櫻井翔演じた主人公一止同様、大の漱石好き。筆名も夏目+川端+『草枕』+芥川龍之介に因むことも知る人ぞ知るが、彼は大の宮沢賢治好きでもあった。
新作『本を守ろうとする猫の話』は、とある古書店を舞台にした夏川版『銀河鉄道の夜』。本と人の関係を改めて問う、意外にも辛辣な社会派ファンタジーだ。
主人公〈夏木林太郎〉は「夏木書店」を営む祖父と暮らす、〈一介の高校生〉。しかし祖父が突然亡くなり、叔母の家に引き取られることになった彼は、閉店作業に追われる中、1匹のトラネコに話しかけられる。
人間の言葉を自在に操り、洞察力にも優れた毒舌猫と、孤独な少年の秘密のひと時。が、そんな2人の読書談義に聞き入ったのも束の間、こんな言葉が胸に突き刺さる。〈お前はただの物知りになりたいのか?〉──。