世界では安楽死容認の動きが広がりつつあるが、40年以上前に問題提起されながら具体的な議論が遅々として進まない“安楽死後進国”の現状と課題とは──。安楽死は、「積極的安楽死」と「消極的安楽死」のふたつに分類される。前者は「医師が薬物を投与し、患者を死に至らす行為」。後者は「医師が治療を開始しない、または治療を終了させ、最終的に死に至らす行為」と定義される。
そして、「安楽死」とは別に「自殺幇助」という方法による死に方もある。こちらも、安楽死同様、「積極的自殺幇助」と「消極的自殺幇助」のふたつに分けて考えられる。前者は、「医師が薬物を投与するのではなく、患者自身が投与して自殺する行為」。後者は「回復の見込みのない患者に対し、延命措置を打ち切ること」で、一般的に日本語で表現される「尊厳死」がこれに当たる。
前提として、日本では「安楽死」は認められていない。1991年に起きた東海大学付属病院事件では、末期状態の患者に対し、医師が家族の依頼を受けて患者に薬物を注射し死亡させたが、医師は殺人罪で有罪判決を受けた。たとえ患者本人が望んだとしても、安楽死を認める法律がないため、医師が罪に問われる可能性がある。
日本の安楽死をめぐる議論は1976年、医師や学者らが安楽死協会を設立したことに始まる。同会は1978年、「末期医療の特別措置法案」を策定した。第1条にはこうある。
〈この法律は、不治かつ末期の状態にあって過剰な延命措置を望まない者の意思に基づき、その延命措置を停止する手続きなどを定めることを目的とする〉
ところが、反対派が文化人らを中心とする「安楽死法制化を阻止する会」を立ち上げ、「治療や看護の意欲を阻害し、患者やその家族の闘病の気力を失わせるものだ」、「命ある限り精一杯生きぬくことが人間の本質である」と主張。そうした倫理的観点からの反対論が強く、法制化は立ち消えになった。
入院患者の9割以上を高齢者が占める木村病院・院長の木村厚氏が解説する。