だが、プレーへの理想や基準が高いといわれる松山は、常に自分のショットのあちこちが気になるのか、そんな気の緩みが感じられない。
集中力と注意力を邪魔するのは、マイナス感情だけでなく、喜びや嬉しさという感情の高ぶりや安堵感もプラスになるとは限らないのだ。スポーツマンが常に平常心を求められるのは、そのためでもある。強いメンタルは、マイナス要因だけに求められるものではないだろう。
スポーツ心理学の第一人者、ジム・レイヤーは『メンタル・タフネス』という著書で、「何事においても実力を発揮するには、平常心を保ち、しっかり集中していることが必要だ」と書いている。そして冷静にすべきことをして、何事にも心を乱されないことが必要だという。
さて、そう分析をしてみたものの、松山の場合、結果オーライのいいショットなのか、本人にとって納得のいくいいショットだったのか、その違いが見ていてイマイチ、いや、まるでわからない。
どこかに、それがわかるような仕草や動作はないものか? そう思って画像を見ると、わずかに差が出る動作があった。
歩き方だ。ゴルフの映像だと、歩き方がはっきり映るのはグリーン周りかグリーンの上だ。その時の松山の歩き方や、パターを打った後の足の運びに注目すると…。
ボールがカップに入った時、松山はつま先を上に向けて歩くのだ。とても嬉しそうに、楽しそうに、つま先をピンと上に蹴りあげて歩く。つま先は身体の中でも、プラスの感情が出やすいところ。そのため、嬉しかったりいい気分だと、つま先が上を向きやすいと一般的にいわれる。
グリーン周りのよい位置にボールがある時もそうだ。ボールに近づく松山のつま先は上を向いて持ち上がる。だがアプローチがうまくいかなかった時やボールがカップに入らなかった時、つま先はそれほど上を向いていない。
パットをはずした時は、「あ~あ、やっちまったよ」といった感じで、天を見上げたり、手をぶらぶらさせる仕草を見せるが、それを引きずらず、いい方向に変えていくのがうまいのも松山だ。最終ホールのパットをはずし、プレーオフになったことを聞かれると、「何で入らなかったのか?」と首を傾げて苦笑いしたが「悪いストロークではなかったので、プラスに考えてプレーした」と答えていた。
今はまだ「日本で一番のプレーヤーとは思わない」と視線を落とし、大きく首を傾げたが、その後「そうなっていけるよう頑張る」と小さく頷いた松山。フェニックス・オープンで見せた力のこもった勝利のガッツポーズを、今年のマスターズでも期待しよう。