落語歴65年、御年80歳。桂歌丸の鼻から伸びたチューブはステージ後方にある酸素吸入器へと繋がれている。声にハリはあるがこの機材を用意しなければ、高座に上がれないこともまた事実だ。この復帰の直前、歌丸は本誌・週刊ポストに「引退も考えている」と打ち明けた。まだまだ元気なようだが、確実に迫る「死」について考えてしまう日もあるという。おそるおそる「準備はしているのか?」と尋ねると、笑みを浮かべながら、こう続けた──。
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ウチに先祖代々残っているのはお墓だけ。横浜の市営墓地にあります。
いまではボタンひとつで簡単に操作できる、納骨堂ってェのがあるらしいじゃないですか。それに入るのも悪い話じゃないなァとは思ったんですが、運営会社が潰れたらアタシたちのお骨はどうなっちゃうんだろうって不安もある。だからアタシも、先祖と同じ墓に入ろうかな、と。
お墓以外に、家族には特に残すものはない。遺言もありません。もしアタシが先に目を瞑ったら、カミさんや子供たちには「後は勝手にやってくれ」となりますね。いちいちアタシが口を出す必要はないもん。そのかわり、カミさんが先に逝ってしまったら、こっちも勝手にやります。たぶんカミさんはヘソクリをたんまり持ってるだろうから、それを拝めるのが楽しみですよ(笑い)。
〈一方、65年という長い歳月を捧げてきた落語界に対しては、伝えたいことがあるようだ。かつて、先代の司会・三遊亭円楽から「後は頼んだよ」と『笑点』(日本テレビ系)と落語界の未来を託された歌丸は、誰にバトンを渡すのか〉
まだ本人たちにもいっていないんですが、(三遊亭)小遊三さん、(春風亭)昇太さん、(桂)米助さん。同じ落語芸術協会の3人に後を託したいですね。時が来たら彼らに言葉をかけようと思っています。
『笑点』には、特別言葉はありません。今のアタシはいち視聴者として楽しく観てるだけ。今の『笑点』は昇太さんの司会でうまく回ってる。だからアタシはとやかくいいません。いう立場でもないですからね。
ただし、若い噺家たちには、いっておきたいことがある。それは「落語を壊さないでくれ」ということです。