【著者に訊け】岩木一麻氏/『がん消滅の罠 完全寛解の謎』/宝島社/1380円+税
これまで消失トリックで消える物といえば、凶器や死体が専らの対象だった。しかし本書で描かれるのは〈不可能状況下でのがんの消失事件〉。日本がんセンター呼吸器内科に勤務する〈夏目典明〉は自らが余命半年を宣告した末期患者の4人中4人が、生命保険の生前給付を受けた後に〈完全寛解〉に至る、前代未聞の事態に遭遇するのだ。
『がん消滅の罠』で第15回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した岩木一麻氏自身、かつては国立がん研究センターに勤務。夏目や、〈天才研究者探偵〉を自称する同僚〈羽島悠馬〉と同様、がんと向き合ってきた元研究者でもある。
羽島が〈殺人事件ならぬ活人事件というわけだ〉と言うように、本来、寛解は歓迎すべきこと。だがその背後には〈救済〉を騙った恐るべき計画が見え隠れし、人が人命や運命すら支配しようとする時、医療は禍々しいまでの毒を帯びる。
「執筆動機は2つあって、1つはこの方法でのがん消滅のトリックを研究者時代に思いつき、それをトム・クランシーやマイケル・クライトンのような手に汗握る小説に書きたかったこと。もう1つは、日本人の2人に1人ががんになる時代なのに、多くの方はがんのことをよく知らないからです。
医学の進歩で、長期間の延命も、痛みのコントロールも可能になってきているのですが、がん=悲惨な死というイメージを持つ人はいまだに多い。もっと正確な情報をミステリーとして読めれば少しは状況も変わるかもしれません」