ここ2、3年、“カセットテープ音楽”が一部で注目されている。若手のロックバンドだけでなく、ベテランの松田聖子やアイドルグループのでんぱ組.incなどがカセットテープで新譜をリリースしている。
かつてレコードからCDへと切り替わる過程で、音楽ソフトとしてのカセットテープは多くが表舞台から消え、現在、音楽の聴き方はCDからデータのダウンロード、ストリーミングへと移行している。そんな時代になぜアナログのカセットテープなのか?
一昨年8月、東京・中目黒の住宅街にカセットテープ専門店waltzがオープンした。25坪の店内に洋楽を中心に5000タイトル以上の新譜、旧譜のカセットテープを置いている。
「倉庫にはさらに1万タイトル以上の在庫があります」
と話すのは、オーナーの角田太郎氏。店内の一部にカセットテープコーナーを設けている大手CDショップはあるが、実店舗の専門店は日本ではここだけ。しかもこれほど商品が豊富なのは世界的にも珍しいという。
「お客様は10代から70代と幅広く、月に1000本ぐらい売れます。年配の方は自分の青春時代に聴いた旧譜を、若い方は今の新譜を買われることが多いですね」
価格は、新譜は1500~1600円が中心で、CDより安い。旧譜はレア度によって異なるが、平均2200円程度。
「昔はお金がなくてCDが買えず、レンタル店でCDを借りて空テープに録音する、というのがカセットテープでの音楽の聴き方。必然的に音質はあまり良くありませんでした。
だから、オリジナルのテープを聴くと、音質の良さに驚くんですね。デジタルのキンキンした音と違い、音に丸みがあります。デジタルしか知らなかった若い人にとっては、懐かしいというより新鮮でハマるようです」(角田氏)
実は細々ながら一定数のカセットテープが売れ続けてきた音楽ジャンルがある。演歌だ。東京・東十条にあるミュージックショップ・ダンは、演歌歌手が必ずキャンペーンでまわる老舗のCD販売店だ。いまでも月400本ほどのカセットが売れる。
「おもに中高年の女性がカラオケの練習用に買っていきます」(山中喜三雄社長)
少しずつ巻き戻せるテープは、カラオケの練習をするのに都合が良いからだ。そのため新曲のシングル盤カセットが特によく売れるという。