「ベストセラーは世の中を映す鏡」といわれるが、では、現在56万部を超える大ベストセラーとなった佐藤愛子さんのエッセイ集『九十歳。何がめでたい』が映し出しているのは、はたして…? 社会学者の水無田気流さんにベストセラーの理由を聞いた。
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ベストセラーの要因は、大きく3点あるように思います。
◆「役立つ物」至上主義への反動
ゼロ年代以降の新自由主義的な気運の浸透により、昨今の社会は「より役立つ物」「効率の良さ」が追求されてきました。しかし、合理性や効率性が最優先されてきた結果、失われてしまったものも多々あります。
本書で書かれている「情」や「信頼関係」へのまなざしは、この「効率至上主義」の社会では旗色が悪いもの、でも人が生き生きと生活するために必要なもののように思います。 また、あらゆるものがクリーンで脱臭済みのような世相の中で、人間の生命力や生活力、自己判断能力、さらには素直な感受性のようなものも失われてきています。
従って本書のブームを支えているのは、ゼロ年代以降蔓延してきた「役立つ物」至上主義への反動があるのでしょう。
◆「昏迷と騒乱の時代」への不安