社会学者の上野千鶴子氏が「平等に貧しくなろう」と中日新聞・東京新聞で語ったのを契機に、ネット上でも大きな議論が巻き起こった。日本は豊かなのか貧しいのか、低成長はよいことなのか悪なのか? 経営コンサルタントの大前研一氏が、日本にとって「低成長」とはどんな意味をもつのかについて解説する。
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今年に入ってから新聞・雑誌を中心に「低成長論争」が喧(かまびす)しくなっている。「ゼロ成長は悪なのか?」「成長よりも成熟を」といった低成長容認論に対し、「成長至上主義を放棄すべきではない」「成長をあきらめていたら国際競争力を失う」などの反論が相次いでいるのだ。
しかし、私はどちらの見方にも与しない。そもそも日本は、バブル崩壊後25年にわたって低成長やマイナス成長が常態化している。安倍晋三首相と黒田東彦(はるひこ)・日本銀行総裁は4年前からアベクロノミクスで2%成長を目指しているわけだが、一向に成長率は上向いていない。それは日本の人口、とくに労働力人口が減り続けているのだから当たり前のことであり、低成長が良いとか悪いとか、容認するとかしないとかいうレベルの話ではないのである。
もはや日本は成長しえない、という前提に立った場合、大きく分けて二つの議論がある。一つは「日本という国家の選択肢はどうあるべきか?」、もう一つは「そこに暮らす国民一人一人はどうすべきか?」。これをごちゃごちゃにすると問題の本質が見えなくなる。
まず、国家の問題としてとらえると、かつて大航海時代に覇権を握ったスペインやポルトガル、イタリア、オランダ、イギリスはどうなったか?