「在外邦人保護」の強化という政府の建前と実態には大きな落差がある。安倍晋三首相は「法制度の不備により邦人の命を守れないことはあってはならない」と新安保法の制定にあたって力説。自衛隊の活動に「在外邦人保護措置」と「駆けつけ警護」を加えた。
その新任務第1号が国会で「戦闘行為」が問題化している南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣された陸上自衛隊の部隊であり、稲田朋美・防衛相は部隊の壮行会で、「現地の邦人にとっても、リスク低減につながる」と訓示した。
ところが、政府が主張する建前と実態との落差を、海外テロの被害者が告発する。
「私たち夫婦はチュニジアでテロに遭い、妻は銃弾に倒れました。その後の日本政府のテロ被害者や遺族に対する向き合い方がいかに希薄なものであるかを知って落胆しています」
そう悲痛な声をあげるのは2015年に北アフリカのチュニジアで起きたバルドー博物館銃乱射事件(3月18日)で妻を亡くした成沢洋二さんだ。
成沢さんは妻と義妹、友人の4人で海外旅行中、テロに遭った。イスラム過激派の武装勢力が博物館に乱入し銃を乱射、観光客22人が死亡。日本人犠牲者3人のうちの1人が妻・万知代さん(享年66)で、成沢さんも負傷した。
現在、海外テロ被害者遺族の会を立ちあげてテロ被害者の救済制度の必要性を訴える成沢さんが、妻の三回忌を迎えるにあたり、「私の体験を1人でも多くの人に知っていただきたい」と手記を寄せた──。