映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、2017年1月21日に脳リンパ腫で亡くなった、故・松方弘樹さんが、かつて共演した大御所俳優について語った言葉をお届けする。
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松方弘樹が亡くなった。本連載には2014年7月にご登場、その後も2015年2月に本誌で対談をさせていただいた。
その対談では共演されてきた名優たちとのエピソードをうかがっている。中でも熱く語っていたのが、鶴田浩二。若手時代に数々の任侠映画で共演してきただけでなく、晩年にはソックリな芝居をするほど、彼に多大な影響を与えた往年のスターだ。
「鶴田のおっさんには可愛がってもらいましたね。東映に入ったのは僕が先で、おっさんは松竹、東宝を経て東映に来ました。大泉(東映東京撮影所)の僕の控え室にいきなり入ってきたんです。『ワシに似ている松方っていうのは、どいつや』って。
実は、僕が一番最初に映画出演したのが中学一年の時で、鶴田のおっさんの少年時代の役だったんです。それをおっさんも覚えていて、『あの子供がなあ。ワシも老けるわけやな』とか言っていました。とにかく、おっさんは芝居が上手い。それから、男の哀愁や色気が凄くある。
あと、あのセリフの覚え方は異常でしたね。あんなにセリフの覚えがイイ人は見たことがない。錦兄(萬屋錦之介)の場合は風呂場にセリフを書いた紙を貼って覚えようとしているのを見たことがあるけど、おっさんは勉強している姿を見たことがない。いつもスタッフを連れて飲み歩いていて。それなのに、現場では相手のセリフまで全て覚えているんです。
晩年も僕の主演作の『修羅の群れ』や『最後の博徒』にお付き合いいただきましたが、あの時もいろいろと教えてくれました。『もうちょっと間を持て』『そこはもっと溜めろ』って。
おっさんは石原裕次郎さんと相前後して亡くなりましたけど、世間の評価がね。芝居から言ったら、問題にならないくらい、おっさんが遥かに上手いです」