かつて北朝鮮・金正日総書記の後継者と呼ばれたこともある金正男氏が暗殺された。指令を下したのは腹違いの弟・金正恩委員長とみられる。今から3年前、マレーシアで当の正男氏に直撃したジャーナリストの李策氏が、暗殺2週間前に受け取ったというスマホのメッセージを公開する。
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1月28日、私のスマホに1通の年賀状が届いた。メッセンジャー・アプリ「カカオトーク」に画像で送られてきたもので、新年のあいさつが1行、韓国語で書かれただけのシンプルな便りだ。送り主のハンドルネームは韓国名だが、日本語に直すと「福ちゃん」といったところで、自分の外見から付けた名前だろう。
彼の本名は、金正男。北朝鮮の故金正日総書記の長男で、金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄である。
年賀状が届いてからわずか2週間余り後、我々が知り合ったマレーシアの地で殺されることになるとは、想像も出来なかった。
私が正男氏とメッセージをやり取りするようになったのは、2014年4月からのことだ。正男氏の滞在先情報を得た私は、週刊誌と報道番組の制作会社との合同企画として、彼のインタビューを行うべくマレーシアに飛んだ。
当時、正男氏はすでに何度も海外の空港などでキャッチされ、カメラの前でコメントし、本人のメールをまとめた書籍も出ていた。これ以上、立ち話を盗み撮りしたようなインタビューを報じても意味がない。正式に取材を申し込み、承諾を得られなければ何も撮らず、何も書かないと決めていた。
前年12月、正男氏の後ろ盾とされていた叔父・張成沢元国防副委員長が正恩氏によって処刑されていた。正男氏が危うい立場にあることは考えるまでもなくわかる。だから正恩氏や本国に対する批判めいた言葉を引き出すのではなく、北朝鮮と日本、そしてアジアの未来像について聞こうと思った。